筋強直性ジストロフィー myotonic dystrophy, dystrophia myotonica (DM)
【概念】
常染色体優性遺伝で、筋力低下・筋萎縮に加えて筋強直症を特徴とする疾患。多臓器障害により多様な症候を呈する。
【病因】
3ないし4塩基リピートが異常伸長した toxic RNAによるRNA病。
DM1は19番染色体長腕 19q13.3にあるDMキナーゼ(DMPK)遺伝子の3’非翻訳領域にあるCTGリピートが異常伸長し、リピート数は50〜数千にまで達する(正常は38回以下)。
DM2はまれであり、3番染色体 3q21上のZNF9遺伝子のイントロン1にあるCCTGリピートの異常伸長による。
次世代でリピート数がより増加し、症状も早期化・重症化する表現促進現象がみられ、これは母親由来の場合に顕著となる。先天型のほとんどは母親由来である。
CTGリピート伸長は3’非翻訳領域にあり、患者のDMPK蛋白自体に異常はないが、pre-mRNAへ転写された伸長CUGリピートがスプライシングを制御するRNA結合蛋白をトラップするため、さまざまな遺伝子の転写過程において正常なスプライシングが障害される。
筋肉ではClチャンネル(CLCN1)遺伝子発現で異常スプライシングが起こり、幼若型CLCN1ができるためにミオトニアが生じる。
インスリン受容体もスプライシング異常により幼若型受容体が優位になり、耐糖能異常をきたす。
【疫学】
有病率は10万人あたり約5人。
成人発症の筋ジストロフィーの中で最も多い。
【病理】
筋は壊死・再生像に乏しく、筋線維の大小不同、中心核線維の増加、タイプ1型筋線維の萎縮が特徴的。
中心核は筋線維の長軸方向に鎖状に連なり、小径筋線維ではこのような核が集合した pyknotic nuclear clampがみられる。
筋鞘膜下にしばしば sarcoplasmic massと呼ばれる無構造物が観察される。
【臨床症状】
ミオトニア現象と全身の筋力低下・筋萎縮が中核症状となる。
把握ミオトニア grip myotonia:強く手を握った後、直ちに拳が開けない。
叩打ミオトニア percussion myotonia:母指球筋をハンマーで叩打すると母指の内転が持続する。
眼瞼ミオトニア:強く閉眼するとすぐに開眼できない。
ミオトニアは寒冷で悪化し、保温やウォームアップ運動で軽減する。
DM1は遠位筋優位に障害され、前腕・下腿筋の筋力低下が強いが、手内筋や足内筋は保たれる。
DM2は近位筋優位の筋力低下を示す(proximal myotonic dystrophy : PROMD)。
ミオパチー顔貌:目を固く閉じることができず、口も半開きとなり眼瞼が下垂する。
斧様顔貌 hatched face:前頭部禿頭、頭蓋骨肥厚により顔の下半分が細く前頭部が突出 frontal bulgingする。
顔面筋、咀嚼筋、胸鎖乳突筋が高度に萎縮する。
筋外症状:白内障、知能低下、過眠、心伝導障害、肺換気障害、性腺萎縮、耐糖能障害、消化管の平滑筋障害など。
先天型(先天性筋強直性ジストロフィー)は生後早期から floppy infantを呈し、呼吸障害や哺乳力低下がみられる重症型で、筋分化の遅延を顕著に認める。
【検査所見】
血清CK値は軽度〜中等度の上昇を示す。
高血糖、血清IgG低値を呈する。
心電図では心房ブロックや洞不全症候群などの心伝導障害がみられる。
肺機能検査では肺換気障害がみられ、肺活量低下の程度に比べ動脈血炭酸ガス分圧が高く、中枢性低換気の機序も合併する。
針筋電図ではミオトニア放電 miotonic dischargeがみられる。これは刺入時に高頻度放電が持続し、徐々に減衰するもので、スピーカーの発する音が「モーターバイク音」「急降下爆撃音」などと呼ばれる。
診断は遺伝子検査による。
【経過・予後】
通常10歳以降に発症し、きわめて緩徐に進行する。
発症後30年以内に約半数が歩行不能となる。
生命予後は合併症により、死因として不整脈による突然死、心不全、誤嚥性肺炎などが多い。
【治療】
根本的治療はなく、リハビリテーションと合併症対策が中心となる。
ミオトニアが強く、生活に支障をきたす場合はフェニトイン、カルバマゼピン、メキシレチンなどを使用する。
心伝導障害が強い場合はペースメーカー装着を考慮する。
呼吸不全は睡眠中に悪化することが多いため、経鼻間欠的陽圧呼吸が適応となる。
【註記】
【参考】
【作成】2017-10-17