亜急性硬化性全脳脳炎 SSPE

亜急性硬化性全脳脳炎 
Subacute Sclerosing Panencephalitis (SSPE)


【概念】

 麻疹ウィルスの異型により発症する非定型脳炎で、進行性の知能障害、共同運動障害、ミオクローヌスを特徴とする。

【疫学】

 頻度は100万人に1人。3〜18歳に好発する。
 約3:1で男児に多い。
 半数は2歳以前に麻疹の罹患歴がある。

【病因】

 麻疹ウィルス(パラミクソウィルス属)の分離に成功しているが、このウィルスはM(マトリックス)蛋白を合成する能力がきわめて低い。脳細胞の融合により、細胞から細胞へ感染すると考えられている。
 乳幼児期に感染した麻疹ウィルスが、患児の免疫機構と脳神経組織の未熟性の故に排除されずに細胞内に潜在し、継体を繰り返すうちに突然変異などにより変質し、徐々に隣接細胞に接触感染し、ある一定の広がりを持ったときに発症すると考えられる。

【病理】

 大脳白質の変性は後頭葉・側頭葉に強く、グリア細胞の増殖が著明である。
 神経細胞やグリア細胞の核内の好酸性封入体を特徴とする。
 電顕上、この封入体は、Paramyxovirus の nucleocapsid に類似した微細な細管構造の集積よりなる。
 Van Bogaert 型は白質のびまん性グリオーシスが特徴。

【臨床】
 初発症状は精神症状が多い。

1)第Ⅰ期
・精神症状(成績低下、集中力低下、性格変化、物忘れ、言語退行など)
・ミオクローヌス(頭部、躯幹、四肢を突然屈曲させ、ゆっくり戻す。睡眠で消失)
・次第に知能低下
2)第Ⅱ期
・錐体外路症状(ジストニア、舞踏様アテトーゼ、振戦)
・弓なり緊張 opisthotonus、周囲への無関心、嚥下困難
・皮質盲、視神経萎縮、高度の知能障害
3)第Ⅲ期
・除脳固縮、いびき様呼吸
・視床下部障害(高体温、発汗、皮膚発赤)
・末期には筋緊張は低下し、ミオクローヌスは減弱

 髄膜刺激症状は全期を通じて出現しない。
 発症から死亡まで平均数年。80%は2年以内に死亡するが、まれに寛解がある。

【検査】

 血液生化学的異常はなく、炎症所見もない。
 血清・髄液の麻疹ウィルス抗体価は著明に上昇(M蛋白抗体は低値)。
 髄液の免疫グロブリン(IgG、特に oligoclonal IgG Band)の増加がみられる。
 CT上、進行例では脳委縮、実質の巣状の低吸収域の散在とその周囲の高吸収域がみられる。
 脳波上、両側同期性、周期性に高振幅棘徐波の paroxysmal burst と、これに続く平坦化 supression burst を特徴とする。周期性異常波は、左右半球に同期性の多相性鋭波および徐波群発が one set となって出現する。初期には数秒〜数十秒の長い周期で出現し、進行につれて次第に周期が短くなる。棘徐波複合はミオクローヌスに一致し、睡眠でも消失しない。

【診断】
 次の6項目のうち4項目以上を満たせば確実。

・典型的な臨床症状
・脳波所見
・金ゾル反応あるいは髄液中のγ-globulin 増加
・血清中あるいは髄液中の麻疹抗体価上昇
・脳生検、剖検による全脳脳炎の像
・麻疹ウィルスの分離


【註記】


【参考】


【改訂】2016-12-04