進行性多巣性白質脳症 PML

進行性多巣性白質脳症 
Progressive multifocal leukoencephalopathy (PML)


【概念】
 主として免疫能低下患者に発生する亜急性ウィルス感染症で、進行性の脳症を呈し、白質に多巣性の脱髄巣を認める。

【病因】
 DNAウィルスの Papova virus に類似する JC virus が関与する。これは通常病原性を持たず、ヒトの半数以上が14歳以前に不顕性感染を起こす。
 PML JC ウィルスの遺伝子検討では、塩基番号100〜210の欠失と挿入がみられ、新たなエンハンサー・エレメントを有した変異が検出されている。すなわち、持続または潜伏感染しているJCウィルスのうち、遺伝子制御領域に変異の起きた変異株が脳内に侵入してオリゴデンドロサイトに感染増殖し、PMLを引き起こすと考えられている。HIV患者においてはこの変異が高率に起こり、これがAIDS患者にPMLが多発する原因とされている。

【病理】
 大脳白質に多巣性の脱髄層がみられる。頭頂後頭部に好発する。
 病巣部に巨大な多核性アストロサイトと、好酸性の核内封入体を持つオリゴデンドログリアの出現がみられ、核内に結晶様配列を持つ球形のウィルス粒子 virion がある。この粒子はパポバ・ウィルスに類似する。

【疫学】
 40〜50歳代に好発し、男性にやや多い。
 基礎疾患としては Hodgkin 病の頻度が高いが、近年 AIDS における合併が増加している。
 AIDS PML においては前頭・頭頂葉に好発し、非 AIDS PML では頭頂・後頭葉白質を侵しやすい。

【臨床】
 発症は亜急性で、器質性精神症状(記銘力低下、見当識障害)、不全片麻痺などで発症する。
 非 AIDS PML では経過中に視力障害を来すことが多い。
 次第に痴 呆から意識障害に進む。小脳症状、脳幹症状は比較的少ない。
 通常、炎症症状や髄膜刺激症状はみられない。
 全経過はおよそ3〜6カ月。

【検査】
・血清、髄液は正常。
・脳波上、びまん性徐波化と非対称性変化がみられる。
・CT・MRIでは大脳白質に境界明瞭な低吸収域または高信号域が認められる。血管支配領域に一致せず、多巣性であるのが特徴。
・免疫能低下のため、パポバ・ウィルス抗体は必ずしも陽性にならない。今後、髄液からのPCR法によるJCウィルスゲノムの検出が期待される。

【鑑別疾患】
 AIDS脳症、帯状ヘルペス脳症、サイトメガロウィルス脳症、脳トキソプラズマ症、悪性リンパ腫、カルモフール脳症、脳膿瘍、多発性硬化症など。


【参考】