ウェルニッケ・コルサコフ症候群
Wernicke-Korsakoff syndrome
【概念】
サイアミン(ビタミンB1)欠乏により起こる Wernicke 脳症(意識障害、眼球運動障害、運動失調が3主徴)と、その治療過程で生じる Korsakoff 症候群(健忘症候群が主徴)の総称。
【疫学】
慢性アルコール中毒によるものが最も多いが、妊娠悪阻や腸管切除術後にも起こりうる。
【臨床症状】
1)急性期;Wernicke 脳症
精神症状が高頻度に起こる。意識レベルは傾眠状態程度だが、刺激を与えてもほとんど言葉を発しないことが多く、global confusional state と呼ばれる。
躯幹失調(失調性歩行)も高頻度にみられるが、構音障害、四肢失調は比較的少ない。
眼球運動障害は注視時の水平性眼振および垂直性眼振が多い。
外眼筋麻痺では外直筋の障害が特徴的であり、また左右対称性である。
これらに加えて、末梢神経障害による四肢筋力低下がみられることもある。
低体温(体中心部温度が34度以下)は視床下部障害によると考えられ、意識障害も重く、後遺症を残すことが多い。
2)慢性期;Korsakoff 症候群
他の認知機能に比べ、記憶障害(健忘症候群)が目立つ。
前向性健忘では、即時記憶は保たれ、短期記憶が高度に障害される。
逆行性健忘では、発症時から数年に及ぶものも多く、発症時に近いほど障害が強い。
計算能力や言語機能は良く保たれている。
【検査所見】
1)サイアミン依存性酵素である血中トランスケトラーゼ活性(TKA)低下
2)サイアミンピロリン酸効果(TPPE)陽性:活性型サイアミン添加で血中トランスケトラーゼ活性が上昇する(20〜25%以上の上昇率)
3)血中サイアミン値(B1値)の低下
が診断に有用である。
その他、以下の所見も参考になる。
4)アルコール性のものは肝機能障害と大球性貧血
5)未治療例では高乳酸血症
6)髄液検査では軽度から中等度の蛋白上昇
7)末梢神経障害や循環器系の障害の合併
【病理】
側脳室周辺部(特に視床内側核群と乳頭体)・中脳水道周囲灰白質・四丘体の変性萎縮が特徴的である。
組織学的には急性期に血管内皮細胞の膨化、出血、その後に血管の増生とグリオーシスがみられる。神経細胞は比較的保たれている。
MRI検査ではFLAIR法により病巣を明瞭に描出することができる。
【治療】
サイアミン補充が原則である。まず静注ないし筋注より開始する。急性期の Wernicke 脳症と多発性神経炎には著効を示す。
意識障害、眼球運動障害、垂直性眼振は速やかに消失する(1週間程度)。水平性注視眼振や歩行失調はやや長期にわたり残存する。
慢性期の Korsakoff 症候群にはあまり効果が期待できない。
【註記】
【参考】
【改訂】2017-02-03