ウイルス性胃腸炎 viral gastroenteritis

ウイルス性胃腸炎
viral gastroenteritis


【概念】

 ウイルスの感染によっておこる急性胃腸炎。感染性胃腸炎 infectious gastroenteritisの一種で、ウイルス性下痢症 viral diarrheaとほぼ同義語。小児の場合は嘔吐下痢症とよばれることもある。

【病原体】

 ロタウイルス(A群、B群、C群)、ノロウイルス、サボウイルス、アデノウイルス、アストロウイルスの5種が起因ウイルスとなりうる。なかでもA群ノロウイルスが約半数を占め、次いでノロウイルスの頻度が高い。

1)ロタウイルス Rotavirus
 特徴的二重殻構造をもつ直径70nmの二本鎖RNAウイルス。
 糞口経路による接触感染をおこし、潜伏期間は24〜72時間。新生児期の発症は少なく、生後6ヶ月〜2歳までの罹患率が高い。
 A群は乳幼児の重症下痢症の最大病因(約50%)であり、冬季に多く、便の色調が白色となる(冬季乳児下痢症)。成人では不顕性感染が多いが、老人施設で少流行をおこすことがある。
 B群はおもに中国で成人のコレラ様下痢症の原因となるが、わが国では発生していない。
 C群は年長児、学童で散発的に発生し、少流行することがある。

2)ノロウイルス Norovirus
 小型球形の一本鎖RNAウイルス(カリシウイスル科)。1968年にアメリカ、ノーウォークの小学校で集団発生した胃腸炎の原因として特定され、かつてはノーウォーク因子またはSRSV(Small Round Structure Virus)とよばれていたが、2003年よりノロウイルスの名称に改められた。
 下水から河川中に流れ込んだウイルスはカキ等の中腸腺に捕捉され、濃縮されるため、生食されるカキから感染し食中毒をおこすことがしばしばある。
 糞口経路による接触感染をおこし、潜伏期間は24〜48時間。
 全ての年齢層における下痢症の原因(10〜20%)で、健康成人では一般に症状が軽いが、乳幼児や高齢者では重症化しうる。通常1〜3日で自然回復し、慢性化することはない。成人の約50%は不顕性感染。
 学童期以降成人のウイルス性胃腸炎の集団発生またはウイルス性食中毒の最大原因となる。

3)サポウイルス Sapovirus
 小型球形の一本鎖RNAウイルス(カリシウイルス科)で、小児のウイルス性胃腸炎の原因の一部(約5%)をなすが、症状はA群ロタウイルスより軽い。成人発症はほとんどない。
 1977年に札幌市でおこった児童福祉施設での集団感染により知られるようになった。ウイルスの名称は「札幌」に由来する。

4)アデノウイルス(血清型40・41)Adenovirus
 正20面体、直径70nmの二本鎖DNAウイルスで、乳幼児の散発性下痢症の一部(約5%)の原因となり、A群ロタウイルスより経過が長い。

5)アストロウイルス Astrovirus
 小型球形の一本鎖RNAウイルスで、乳幼児の散発性下痢症の一部(約5%)の原因となり、ときに小児間で集団発生をおこす。
 アストロウイルスとはアストロウイルス科のRNAウイルスの総称で、胃腸炎の原因になるのはヒトアストロウイルス Human astrovirus。電顕で見ると粒子が星型に見えることから名づけられた。

【病態】

 ウイルスは糞口経路により経口的に侵入し、腸管上皮細胞に感染して増殖する。小腸の成熟分化上皮細胞層が破壊され、水分の吸収不全により下痢と脱水がおこる。

【臨床症状】

 発熱・嘔吐・下痢が特徴。
 急激に始まる嘔吐に引き続き、下痢と発熱がおこる。
 下痢は水様性であり、原則的に出血はない。
 腹痛はあっても、強くない。発熱は38℃未満のことが多い。
 ノロウイルスに対する獲得免疫は持続しないため、繰り返し感染することがある。

【合併症】

 乳幼児のロタウイルス感染で、胃腸炎の経過中に腸重積症、脳炎・脳症、肝障害がおこることがある。

【治療・予防】

 脱水症に対する適切な治療を行えば、自然経過で治癒する。
 ウイルスの多くは10〜100個の微量ウイルス粒子でも感染が成立するため、患者およびその排泄物に接した場合は十分な手洗いが必要になる。
 予防としてはロタウイルスに対する経口弱毒生ワクチンがある。


【註記】


【参考】


【作成】2016-12-15