天然痘(痘瘡) variola

天然痘(痘瘡)
smallpox, variola


【概念】

 発熱・頭痛に引き続いて皮膚に紅斑、膿疱をきたす疾患で、痘瘡ウィルスによる。伝染力が強く、死に至ることもある。治癒した場合も顔面に瘢痕が残ることがある。
 天然痘ワクチンの接種(種痘)の普及によりその発生数は減少し、1980年にWHOによる世界根絶宣言が行われ、以後世界中で患者の発生はみられていない。

【病原菌】

 ポックスウィルス科オルソポックスウィルス属の天然痘ウィルスPoxvirus variolae。臨床的には致命率が高い(20〜50%)大痘瘡 variola major(古典的な天然痘)と、致命率が低い(1%以下)小痘瘡 variola minor(19世紀後半にアメリカ大陸で出現)に分けられる。
 ウィルスの感染力は乾燥状態で安定し、数年にわたり感染性を示す。
 現在ウィルスはアメリカとロシアのバイオセーフティクラス(BSL)4施設で保管されているのみ。

【疫学】

・1類感染症1)、ウイルスは一種病原体
・経路:飛沫感染
 病初期に最も感染力が強く、全ての発疹が痂皮化し脱落するまで伝染性がある。

【臨床症状】

・潜伏期:7〜16日(およそ12日)
・初発症状:急激な発熱、頭痛、関節痛。
1)前駆期:40℃以上の発熱が出現し、3〜4日でいったん解熱する。
2)発疹期:紅斑→丘疹→水疱→膿疱→痂皮→落屑・瘢痕と規則正しく移行する。
・発疹は時間の経過とともに変化し、同時期には同じ発疹がみられるのが特徴。
・発疹はまず口腔・咽頭粘膜に出現し、顔面、四肢、全身に拡大する。
・発疹は躯幹よりも四肢に多く出現し、疼痛・灼熱感が強い。
・水疱には臍窩がみられる 通常2〜3週の経過で色素沈着・瘢痕を残して治癒する。
・重症型として出血傾向を伴う出血型があり、予後不良。
・死因は主にウィルス血症による(1〜2週頃に多い)

【合併症】

 二次感染症、蜂窩織炎、敗血症、気管支肺炎、脳炎、出血傾向など。

【診断】

 皮疹・体液からのウィルス分離、PCRによるウィルス遺伝子検出。
 水疱・膿疱よりウィルス抗原またはウィルス粒子の検出。
 PCR法での迅速診断も可能。

【治療・予防】

 治療は基本的に対症療法のみ。
 予防として、かつては種痘が行われたが、現在では行われている国はない。
 学校保健法では第1種感染症で、治癒するまで出席停止。
 バイオテロに対する備えとしてLC16m8株の国家備蓄が行われている(緊急用)。
 実験的にはウイルスDNA合成阻害薬シドホビル cidofovirとその誘導体ヘキサデシルオキシプロピルシドホビル hexadecylixypropyl-cidofovir (HDP-CDV)、ウイルス粒子形成阻害薬のSIGA-246の有効性が確認されている。

*種痘(ワクシニア)ウィルスvaccinia virus
 1796年にジェンナーJennerが種痘に用いた牛痘ウィルスを継代培養したもの(痘苗)。


【註記】
1)2003年に追加。世界中のどこにも流行していない天然痘が追加されたのは、炭疽菌と並んでバイオテロの危険性が最も高いため。


【参考】
・国立感染症研究所HP


【作成】2016-12-15