血管性認知症 vascular dementia

血管性認知症 vascular dementia (VaD)


【概念】
 脳梗塞や脳出血など、さまざまな脳血管障害に起因して生じる認知症の総称。
 認知症の中ではアルツハイマー病に次いで2番めに頻度が高い。
 血管性認知障害 vascular cognitive impairmentとは、認知症から血管障害に起因する軽度認知障害(MCI)を含むより広い概念。

【臨床症状】
 一般にアルツハイマー病よりも記憶障害が軽度で、遂行障害が高度の傾向がある。語想起、呼称、復唱などの言語障害が目立ち、うつ状態や不安などの精神症状も多い。
 意欲低下、感情失禁、精神運動遅滞がみられ、仮性球麻痺やパーキンソニズムを呈することも多く、早期から尿失禁、歩行障害、転倒を認めることもある。

【分類】
 NINDS-AIRENによる診断基準(1993)による。

1)多発梗塞性認知症
 大脳皮質、白質を含む穿通枝領域にアテローム血栓性脳梗塞や心原性脳塞栓症による大・中の脳梗塞が多発したもの。梗塞巣の大きさと認知症発症は相関し、梗塞巣が100ml以上で認知症を発症する可能性が高い。
 症状は閉塞血管支配領域に一致した大脳皮質障害がみられる。
・前大脳動脈領域:帯状回では記憶障害、補足運動野では失語や半球離断症状。
・中大脳動脈領域:優位半球では失語、失行、ゲルストマン症候群。劣位半球では半側空間無視、病態失認、着衣失行など。
・後大脳動脈領域:純粋失読、相貌失認、視覚性失認、地誌的見当識障害、アントン症候群など。海馬を含む側頭葉内側の障害で記憶障害。

2)小血管病変性認知症
 皮質ないし皮質下の小血管領域の虚血性病変によるもので、血管性認知症の約半数を占める。皮質型は脳アミロイド血管症が主な原因。皮質下型は主に細動脈硬化により、多発性ラクナ梗塞と、ビンスワンガー病の2つがある。
 局所神経症状は目立たず、緩徐進行性の経過を示すことが多い。
・認知機能障害:比較的軽度で、想起障害が主となり、再認は保たれやすい。遂行障害、注意障害、施行緩慢、自発性低下などの前頭葉機能障害が中心となる。
・神経徴候:錐体路障害、パーキンソニズム、歩行障害、仮性球麻痺、強迫泣き笑い、失禁など。

3)戦略的部位の単一梗塞による認知症
 認知機能に直接関与する重要な部位の血管障害によるもの。皮質性では前大脳動脈領域、後大脳動脈領域、角回の、皮質下性では前脳基底部、視床の病巣による。
・前大脳動脈領域:無為、超皮質性失語、失行など。
・後大脳動脈領域:記憶障害、興奮、混乱、視覚異常など。
・角回病変:失算、失書、見当識障害、記銘力障害など。
・前脳基底部病変:記銘力障害、行動障害、コルサコフ症候群など。
・視床梗塞:急性期の傾眠、記銘力障害、意欲や自発性の低下。

4)低灌流性認知症
 脳全体の循環不全などにより起こるもの。全身の循環不全により生じる場合と、主幹動脈の高度狭窄や閉塞により生じる場合がある。主幹動脈の境界領域や脳室周囲、深部白質に虚血性病巣が生じる。

5)脳出血性認知症
 脳出血やクモ膜下出血が原因となるもの。前頭葉皮質下や視床などの脳出血や、脳アミロイド血管症による皮質または皮質下の出血によって起こる。クモ膜下出血では出血による脳組織の損傷に加え、続発する脳血管攣縮による脳梗塞、水頭症、脳表ヘモジデリン沈着症などが原因となる。

【経過・予後】
 一般に症状が段階的に進行する。
 合併症としては全身の動脈硬化性疾患があり、呼吸器疾患が死因となることが多い。

【治療】
・認知障害:コリンエステラーゼ阻害薬やメマンチンが有効との報告あり(保険未承認)。
・行動・心理症状(BPSD):非定型向精神薬
・意欲低下:ニセルゴリン、シンメトレル
・予防には抗血小板薬や抗凝固薬


【参考】