腸チフス typhoid fever

腸チフス typhoid fever
パラチフス paratyphoid fever


【概念】
 サルモネラ菌属 Salmonella sp.による消化管感染症で、急性胃腸炎に発熱などの全身症状をきたすもの。チフス性サルモネラ属菌による。

【病原菌】
 サルモネラ属菌は腸内細菌科のG陰性桿菌で、細胞壁リポ多糖体であるO抗原と、鞭毛蛋白質であるH抗原の組合せから血清学的に2,500種類以上に分類される。また、生物学的性状から S. entericaと S. bongoriの2菌種に分類され、さらに6種類の亜型に分類される。
 病原性サルモネラのほとんどは S. enterica subsp. Entericaに属し、発症様式よりチフス性サルモネラ属菌と非チフス性サルモネラ属菌とに分類される。

【病態生理】
 チフス菌、パラチフス菌は腸管のパイエル板のM細胞へ侵入して増殖し、初期病巣を形成する。一部はマクロファージ内で増殖し、リンパ管を経て血中に入り第一次菌血症を起こす。その後、菌は肝臓、脾臓、骨髄などのマクロファージに貪食されるが、その中で増殖し、さらに血中に入って第二次菌血症を起こして発症する。菌は胆汁中で増殖して腸管へ至り、便に混入して排菌される。

【疫学】
 腸チフス、パラチフスともに国内感染例はごく少数のみ。
 通常の感染経路は患者または保菌者の糞便からの経口感染によるが、国内の感染経路は汚染された輸入食品によると考えられる。
 腸チフス、パラチフスともに感染症法の三類感染症。

【臨床症状】
 潜伏期間は5〜21日間
 初発症状は発熱、悪寒、腹痛など。
 第1病週前半に39〜40℃の高熱、後半には比較的徐脈、胸腹部のバラ疹が出現する。
 第2病週には40℃前後の稽留熱が続き、下痢または便秘となる。腸管病変部のリンパ組織が壊死を起こし、痂皮を形成する。
 第3病週には発熱は弛張熱となって次第に解熱する。腸管病変部は潰瘍を形成し、腸出血、まれに腸管穿孔から腹膜炎に至る。
 第4病週には解熱し、症状は改善する。
 合併症としては腸管穿孔があり、成人に多く、致死率が高い。
 パラチフスも同様の臨床経過を取るが、やや軽症。

【経過】
 慢性保菌:感染後12ヶ月以降に便または尿中からチフス菌が検出されること。
 感染者の1〜6%が慢性保菌者となる。女性や胆石保有者に多く、他者への感染源となる。

【診断】
 糞便からの原因菌検出によるが、血液培養のほうがより検出率が高く(40〜80%)、骨髄の培養検査が最も感度が高い。

【治療】
 第1選択は第3世代セファロスポリン系薬が推奨される。
 フルオロキノロン系抗菌薬は東南アジアを中心に耐性菌が増加している。


【註記】


【参考】


【作成】2017-06-27