トキシックショック症候群(TSS)

トキシックショック症候群 toxic shock syndrome (TSS)
トキシックショック様症候群 toxic shock like syndrome (TSLS : STSS)


【概念】
 グラム陽性球菌が産生する外毒素によって引き起こされる急性の高熱、発疹(びまん性紅斑)に難治性ショックを伴う症候群。
 黄色ブドウ球菌によるものをトキシックショック症候群(TSS)、連鎖球菌によるものをトキシックショック様症候群 toxic shock like syndrome (TSLS)または streptococcal toxic shock syndrome (STSS)と呼ぶ。

【病原体】
 黄色ブドウ球菌の産生するtoxic shock syndrome toxin-1(TSST-1)やエンテロトキシン、A群溶連菌では、発熱性外毒素(streptococcal pyrogenic exotoxin : Spe)が細菌性のスーパー抗原として作用し、T細胞が活性化され大量に炎症性サイトカインを放出することにより発症する。

【感染経路】
 TSSは、通常黄色ブドウ球菌が皮膚の障害部位から侵入することによって起こり、外科手術、産褥、熱傷がリスクファクターとなる。
 1980年代には高吸収性タンポンの誤使用による黄色ブドウ球菌性のTSSが、成人発症の50〜60%を占めていたが、原因が判明してからは減少している。
 STSSの侵入門戸ははっきりしないことが多く、乳児と高齢者に起こりやすい。

【臨床症状】
 発熱、発疹、粘膜疹にショックや多臓器不全を伴う。低血圧は急速に進行する。
 初発症状は発熱、筋肉痛、全身倦怠感。
 次いで下痢、嘔吐、全身の紅斑、低血圧症状が起こり、やがて意識障害が出現する。
 皮膚粘膜症状としては全身のびまん性紅斑(日焼け様紅斑)、口腔粘膜のびらん、苺舌、眼球結膜の充血などがみられ、紅斑は1〜2日で消退し、約1〜2週で落屑を生じる(特に手掌・足底)。
 臨床的にTSSとSTSSを鑑別することは困難であるが、一般にTSSは若い女性に多く死亡率は低い(約3%)のに対し、STSSは20〜50代に好発し性差はなく、死亡率が高い(30〜70%)。

【検査】
 TSSでは80〜90%に創部から黄色ブドウ球菌が検出されるが、血液培養は陽性になりにくい。
 STSSは侵入門戸が不明のことが多く、血液培養では陽性率が高い。

【診断基準】
・TSSの診断基準はCDCが用いられる。
・STSSの診断基準は厚生労働省案1997が用いられる。
・感染症法において、劇症型A群溶連菌の届出基準が定められている。

【治療】
・初期蘇生と集中治療室での支持療法が基本。加えてデブリードマンや異物除去を行う。
・抗菌薬はβラクタム系薬とクリンダマイシンの併用が標準的。
 TSSでは抗黄色ブドウ球菌薬、STSSではペニシリンが標準。
 クリンダマイシンはタンパク合成阻害作用により毒素産生を押さえるが、単独では使用しない。
・ガンマグロブリン製剤はSTSSおよびTSSの重症例に使用される。

TSS診断基準(CDC1997)

劇症型溶血性連鎖球菌感染症の届出基準(感染症法)


【註記】


【参考】
・笠井正志、南希成「トキシックショック症候群、トキシックショック様症候群」:日医雑誌 第143巻・特別号(2) 2014


【作成】2017-06-10