破傷風 tetanus
【概念】
破傷風菌による致死率の高い感染症で、菌が産生する神経毒素が全身の強直性痙攣をきたす。
年間発症数は120例程度。ジフテリア百日咳破傷風(DPT)定期予防接種開始以前に出生した40歳代後半より上の年齢層の患者が多い。新生児破傷風はわが国ではきわめてまれ。
感染症法の五類感染症全数把握疾患。
【病原菌】
破傷風菌 Clostridium tetani
偏性嫌気性、芽胞形成性のG陽性桿菌。芽胞の形態で土壌中に広く生息し、汚染した創傷部位から体内に侵入する(創傷性破傷風)。近年はピアス、刺青、麻薬等の注射が感染原因となることもある。
鏡検では桿菌と太鼓バチ状の芽胞が混在して観察される。芽胞はG染色では染色されず、芽胞染色(Wirtz法、Moeller法)が必要。
菌は末梢の感染部位で神経毒素のテタノスパスミンを産生し、これが血行性に神経筋接合部へ運ばれ、その後運動神経軸索内を逆行し、脊髄前角や脳神経核前シナプス部位に作用する。運動神経系の亢進により中枢性の痙性麻痺が起こり、さらに自律神経系が過剰に反応する。
【臨床症状】
潜伏期間3〜21日
〈第Ⅰ期:前駆症状期〉 1〜2日
初発症状:肩こり、歯ぎしり、寝汗、舌のもつれ、顔の歪み、歩行障害など。
軽い開口障害により食物摂取が困難。
〈第Ⅱ期:onset time〉 数時間〜1週間程度
咬筋の硬直による強い開口障害(牙関緊急)。
顔面筋の緊張、硬直による痙笑(ひきつり笑い)。
発語・構音・嚥下障害も出現。
開口障害から痙笑(または全身痙攣)までの時間を onset timeといい、48時間以内だと予後不良。
〈第Ⅲ期:痙攣持続期〉 2〜3週間
頸部筋の緊張による頸部硬直、背筋の緊張・強直による弓なりの全身痙攣(後弓反張)。
自律神経系の過剰反応。
最も生命が危険な時期で、人工呼吸などの全身管理が必要になる。
〈第Ⅳ期:回復期〉
全身性痙攣は消失。局所の筋の強直、腱反射亢進は残存。
症状は徐々に快方に向かう。
致死率は成人で15〜60%、新生児で90%程度。
【検査】
血液・生化学検査:特徴的所見なし。毒素は血中に検出されず、抗体価の上昇もない。
塗抹顕微鏡検査、培養検査:菌の検出率は低い(数%程度)。
【治療】
① 感染創部のデブリドマン
② 抗破傷風ヒト免疫グロブリン(TIG)療法:1500〜4500単位をできるだけ早期に点滴静注
③ 破傷風菌に対する抗菌化学療法:ペニシリンG大量投与
④ 全身管理
【予防】
・1968年以降:DTP三種混合ワクチン定期接種開始
・2012年以降:DPT-IPV四種混合ワクチン定期接種開始
・受傷後の予防措置:破傷風トキソイド接種または抗破傷風ヒト免疫グロブリン静注
【註記】
【参考】
【作成】2017-06-10