性感染症 sexually transmitted infection (STI)

性感染症 sexually transmitted infection (STI)


【概念】
 性行為によって皮膚や粘膜に感染する疾患(性病 venereal diseases)。
 近年は、性行為のみでなく、広義の性的接触によって感染する全ての感染症を性感染症(STI)と称する。無症状であっても、性感染症の病原体が検出されれば性感染症に含まれる。
 症状は多彩で、性器・附属器の炎症症状、性器周辺の皮膚症状、性器外症状および全身症状を呈する。

【疫学】
 男性では尿道炎、女性では子宮頸管炎が最も多い。
 病原体ではクラミジアが最も多く、次いで淋菌が多い。
 男性は20代前半〜30代前半、女性では10代後半〜20代前半がピークとなる。

【病型】
1)尿道炎
 外尿道口からの排膿と排尿時痛が主症状となる。
 男子尿道炎では、淋菌検出の有無により、淋菌性尿道炎と非淋菌系尿道炎とに分類される。また、後者のうちクラミジアが検出されるものはクラミジア性尿道炎と呼び、その他は非クラミジア性非淋菌性尿道炎と呼ばれる。ただし、淋菌性尿道炎の20〜30%からはクラミジアも検出される。
 一般に非淋菌性尿道炎は淋菌性に比べ緩徐に発症し、症状も比較的軽い。
 非クラミジア性非淋菌性尿道炎の中ではトリコモナスとマイコプラズマが検出可能。

2)精巣上体炎・前立腺炎
 クラミジアや淋菌の感染によって起こりうる。
 病原体が尿道から前立腺へ、さらに精管を上行して精巣上体に炎症を起こす。
 急性精巣上体炎は精巣上体の腫脹、局所の疼痛を主症状とし、悪化すると陰嚢内容は一塊となって大きく腫脹する。35歳以下の基礎疾患のない男性の急性精巣上体炎では、まずクラミジアによるものを考える。
 急性前立腺炎は、直腸診で前立腺の腫大と著明な圧痛を認め、高熱を伴うことが多い。

3)直腸炎
 肛門性交により、淋菌やクラミジアによる直腸炎が起こりうる。
 下痢、腹痛、発熱などの消化器症状を呈し、排便時や肛門性交時に強い疼痛を訴えるが、無症状のこともある。
 クラミジア性直腸炎は、直腸に限局する円形〜類円形の顆粒状小隆起を特徴とする。
 単純ヘルペスでは、肛門周囲の皮膚に水疱や潰瘍を形成する。
 HIV感染者では梅毒の合併が多く、肛門部・直腸の潰瘍や腫瘤性病変がみられる。
 肛門と口との接触により、赤痢アメーバ、サルモネラ、カンピロバクターなどの消化器感染症も起こりうる。

4)膣症
 膣症と子宮頸管炎では感染性帯下がみられる。
 膣トリコモナス症では、泡状の悪臭の強い帯下の増加、外陰・膣の刺激感、掻痒感を訴えるが、20〜50%は無症候性である。
 膣カンジダ症は、強い掻痒感と帯下を主訴とする。女性では日常頻繁にみられ、抗生剤投与または性交後に発症することが多い。
 細菌性膣症は膣内細菌叢のうち、乳酸桿菌が減少し、好気性の Gardnerella vaginalisや嫌気性のバクテロイデス属、モビルんカス属などが異常に増殖した状態である。軽度の帯下感を訴えるが、半数は無症状である。

5)子宮頸管炎
 女性のSTIのうち最も頻度が高く、クラミジアや淋菌が原因となる。
 クラミジア性子宮頸管炎は帯下の増加と不正出血が主症状となるが、約半数では自覚症状を欠く。膣鏡診で子宮頸管粘膜は易出血性で、発赤、びらんを呈し、子宮頸管からの分泌物が認められる。

6)骨盤内炎症性疾患 pelvic inflammatory disease (PID)
 小骨盤腔にある臓器の細菌感染症の総称で、付属器炎、卵巣膿瘍、ダグラス窩膿瘍、骨盤腹膜炎などが含まれる。子宮頸管に感染した淋菌やクラミジアが上行性に感染する他、一般の好気性菌、嫌気性菌によっても発症する。
 女性の下腹部痛で発症し、高熱、白血球増加、CRP陽性などの炎症所見に加え、子宮頸管からの分泌物を認めることも多い。
 炎症が腹腔内へ進展すると、肝周囲炎を発症し、上腹部痛を呈することがある(Fitz-Hugh-Curtis症候群)。

7)陰部・性器の潰瘍性疾患
 性器ヘルペスは、男性では亀頭部、陰茎体部などに水疱を生じ、破れて浅い潰瘍となる。一般に症状は軽微で、ときに発熱や鼠径リンパ節の腫脹がみられることがある。女性では初感染時に強い症状を呈し、大陰唇、小陰唇、膣前庭、会陰部にかけて小水疱が多発し、破れて潰瘍を形成する。高熱、鼠径リンパ節腫脹、排尿時痛を伴い、疼痛で歩行困難になることもある。
 男女ともに、再発例では症状が軽いことが多く、陰部から大腿、臀部などに小水疱・潰瘍を生じる。
 梅毒は、感染部位に強い硬結(初期硬結)を生じ、潰瘍化する(硬性下疳)。男性では亀頭、冠状溝周囲に、女性では大・小陰唇周囲に症状がみられ、肛門性交では肛門周囲に病変を生じる。
 Haemophilus ducreyiによる軟性下疳は、男性で亀頭部・冠状溝周囲に、女性では大・小陰唇、膣口に辺縁が鋸歯状の深く、強い疼痛を伴う潰瘍を生じる。アフリカ、東南アジア、南米が流行地で、わが国ではごくまれ。

8)陰部・性器の腫瘍性疾患
 尖圭コンジローマはヒトパピローマウイルスによる感染症で、外陰部、肛門周囲、尿道口、膣、子宮頸管などに乳頭状腫瘍が多発する。
 その他、梅毒の初期硬結、硬性下疳、扁平コンジローマ、伝染性軟属腫などがある。

9)性器外感染
 口腔と性器との接触により、クラミジアや淋菌が口腔・咽頭から分離されることがある。咽頭痛や嗄声がみられることもあるが、多くは無症状で感染源となりうる。その他、単純ヘルペスが口腔から性器に感染することもあり、初期梅毒が口腔内や口唇に生じることもある。
 新生児結膜炎(新生児膿漏眼)は淋菌に感染した妊婦からの垂直感染で、多量の膿性眼脂、眼瞼腫脹、結膜の著明な発赤などをきたし、結膜穿孔を起こすこともある。
 クラミジアによる結膜炎(成人型封入体結膜炎)では、結膜の充血、粘液性の眼脂、眼瞼腫脹などがみられる。


【註記】


【参考】


【作成】2017-05-03