ブドウ球菌感染症 staphylococcal infection
【病原体】
ブドウ球菌はG陽性菌の一種で、顕微鏡下に「ブドウの房」状に配列した菌が観察される。
健常人の20〜30%が保菌しており、典型的には皮膚感染症を起こすが、肺炎、心内膜炎、骨髄炎などの原因菌ともなり、膿瘍を形成することもある。
現在、薬剤耐性菌の蔓延が問題となっている。
〈分類〉
血漿を凝集するコアグラーゼの有無により大きく分類される。
・黄色ブドウ球菌 S. aureus:コアグラーゼ陽性で病原性が強い。
・CNS (coagulase-negative staphylococci):コアグラーゼ陰性で病原性が弱い。
遺伝学的分類は16s rRNAに基いて行われる。
〈薬剤耐性〉
1)ペニシリナーゼ産生
1940年代にペニシリンGが実用化されて間もなく、ペニシリンのβラクタム環を分解するペニシリナーゼ産生能を獲得した耐性菌が出現した。現在ではブドウ球菌の多くがプラスミド依存性にペニシリナーゼを産生するため、βラクタマーゼ阻害薬との配合剤以外のペニシリンは無効であることが多い。
2)メチシリン耐性
ペニシリナーゼに分解されにくい半合成ペニシリン(メチシリンやオキサシリン)が開発されると、メチシリンに高度耐性を示すMRSA(methicillin-resistant S. aureus)が出現し、1980年代以降世界中に蔓延した。
MRSAの耐性メカニズムは、ペニシリン結合蛋白(penicillin binding protein : PBP)の変化であり、PBP1〜4の4種類に加えてPBP2’がPBP1とPBP2との間に合成されるが、PBP2’はβラクタム系抗菌薬に対する結合親和性が非常に低いため、βラクタム系抗菌薬に耐性となる。
PBP2’をコードするmecA遺伝子はトランスポゾンなどによりブドウ球菌に持ち込まれ、染色体上に挿入されたものが拡がったと考えられている。
また、CNSにもメチシリン耐性菌が出現しており、MR-CNS(methicillin-resistant coagulase-negative staphylococci)と呼ばれる。
【病態】
1)黄色ブドウ球菌感染症
皮膚、鼻腔、咽頭の常在菌であり、皮膚では膿痂皮、フルンケル、カルブンケル、蜂窩織炎、毛嚢炎などを起こす
高齢者では誤嚥性肺炎を起こすことがある。
血行性に播種すると、菌血症、骨髄炎、関節炎、心内膜炎などを起こす。
市中感染型MRSA(community-acquired MRSA : CA-MRSA)は、市中で健常人において皮膚の接触で感染が拡大し、重症の壊死性肺炎を起こす強毒型のMRSAで、近年欧米を中心に報告されている。
2)CNS感染症
CNSは皮膚や口腔粘膜の常在菌であり、感染症の原因菌とみなされることは少ない。
ただし、医療処置における人工異物に付着しやすく、日和見感染症として尿路感染症、腹膜炎、心内膜炎などを起こしうる。
3)食中毒
食中毒は食品内で増殖したブドウ球菌が産生した外毒素のエンテロトキシンによって起こる。
ブドウ球菌は室温や食塩濃度が高い食品内でも発育可能であり、エンテロトキシンは耐熱性のため、加熱によって食品中の菌が死滅した後も残留する。
下痢、腹痛、悪心、嘔吐などの消化器症状が主で、毒素型であるため、接触早期に症状が出現する。
4)その他の毒素
・表皮剥脱毒素 exfoliative toxinは、表皮顆粒層を損傷し、表皮剥脱や水疱を形成することにより、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群 staphylococcal scalded skin syndrome (SSSS)、および新生児皮膚剥奪性皮膚炎(Ritter病)を発症する。
・TSST-1(toxic shock syndrome toxin-1)は、T細胞のMHCクラスⅡ抗原と結合して大量のサイトカインを産生し、毒素性ショック症候群(TSS)を引き起こす。
・Panton-Valentine型ロイコシジンは、CA-MRSAによる肺炎において、壊死性肺炎を引き起こす。
【治療】
・初期治療では、患者背景や感染の重症度、感染のフォーカスに応じて抗菌薬を選択する。
・重症の場合は、バンコマイシンなどの抗MRSA薬を使用し、感受性判明後に感受性のある狭域の抗菌薬へ変更するという de-escalationという治療戦略を取る。
・TSSでは、TSST-1などのスーパー抗原を中和するために免疫グロブリンを使用することもある。