ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群 Staphylococcal scalded skin syndrome (SSSS)
【概念】
黄色ブドウ球菌が産生する毒素により、皮膚表層が剥離し、水疱形成して破裂し、熱傷に類似する疾患。主に新生児と乳児にみられるが、まれに成人にも発症し、成人例では死亡率が高い。
【病因】
黄色ブドウ球菌が産生する表皮剥離毒素A、Bにより引き起こされる。
表皮剥離毒素Aをコードする遺伝子は染色体上に、表皮剥離毒素Bはプラスミド上に存在し、毒素産生株の多くは両方を産生する。局所に感染した菌より産生された毒素は体内循環に乗り、遠隔の皮膚に到達し、皮膚病変を形成するため、剥離病変部から黄色ブドウ球菌は検出されない。
毒素はセリンプロテアーゼとして働き、細胞接着因子であるデスモグレイン1を開裂する。
病理検査では表皮壊死や炎症細胞浸潤のない表皮内の断裂を認め、少数の棘融解細胞がみられる。
【疫学】
主に6歳未満の小児にみられる。成人は表皮剥離毒素に対する抗体を有している割合が高いことと、小児では腎機能が未熟なため、毒素の腎排泄が不十分なためである。そのため、免疫不全や腎機能障害のある成人には発症することがあり、菌血症の合併が起こりやすい。
適切な治療が行われた場合、小児の死亡率は4%未満だが、成人では50%を超える。
ときに水平感染によるアウトブレイクをきたすこともある。
【臨床症状】
初発症状は発熱、全身の紅斑、疼痛。
1〜2日後に水疱を形成し、表皮が基底膜を残して剥離する。
健常な皮膚に圧迫などの刺激を加えると、新たに水疱形成と表皮剥離をきたすニコルスキー現象がみられる。
病変は皮膚の浅層に留まるため、瘢痕化することなく治癒する。
デスモグレイン1は粘膜には存在しないため、粘膜病変はきたさない。
診断は皮膚の臨床所見によってなされる。
【治療】
中等度以上のSSSSでは経静脈的な抗菌薬投与が行われる。
市中型MRSA(CA-MRSA)が疑われる場合はバンコマイシンが選択され、CA-MRSAの可能性が低い場合は第一世代のセファロスポリン系薬が使用される。
投与期間は全身状態と皮膚所見によって決定される。
支持療法としてスキンケアも重要であり、患部を清潔に保ち、外用薬で皮膚の防御機能を改善する。
【註記】
【参考】
・村井建美、堀越裕歩「ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群」:日医雑誌 第143巻・特別号(2) 2014
【作成】2017-06-11