重症熱性血小板減少症候群 Severe fever with thrombocytopenia syndrome (SFTS)
【概念】
2011年に中国の研究者らにより報告されたブニヤウイルス科フレボウイルス属に属する新規ウイルス(SFTSウイルス)による感染症。
2013年に日本でもその流行が確認され、中国、日本、韓国で発生していることが明らかになった。
2008〜2009年頃より中国の河南省、湖北省、山東省の山岳地域で、発熱や消化器症状(嘔吐、下痢等)で発症し、末梢血中の白血球と血小板が減少し、かつ致命率が高いという特異な感染症様疾患の流行が報告され、2011年に中国の研究者らが原因ウイルスを特定した。
日本においては、2012年秋に死亡した山口県の患者より同ウイルスが分離されたことが2013年1月に公表され、西日本を中心に患者が発生していることが判明した。
【病原体】
ブニヤウイルス科フレボウイルス属のSFTSウイルス(SFTSV)
陰性極性の1本鎖RNAウイルスで、ウイルス粒子には3分節のRNAが含まれ、それぞれRNA依存性RNAポリメラーゼ、膜タンパク質、核タンパク質および非構造タンパク質を発現する。
遺伝子塩基配列による系統樹解析の結果、日本株のほとんどは中国株と独立したクラスターを形成していることが判明した。
感染経路はマダニ(日本ではフタトゲチマダニやタカサゴキララマダニ)の刺咬による。
自然界においては、SFTSVは哺乳動物とマダニとの間で維持されており、マダニにおいては卵を介してウイルスが幼ダニに受け継がれている(経卵性伝搬)。
【疫学】
我が国では西日本を中心に分布している(九州、四国、中国、紀伊半島、北陸)。
毎年40〜60人の患者が発生しており、2013〜2016年11月時点で累計200名以上の患者が報告されている。
マダニの活動が高まる初夏と秋に流行する。
患者の多くは壮齢・高齢者。
【臨床症状】
潜伏期間は5〜14日
発熱、全身倦怠感、消化器症状(悪心・嘔吐、腹痛、下痢、下血)が多い(80%)。
リンパ節腫脹(40%)、意識障害(約半数)、出血傾向(20%)などもみられる。
マダニの刺し口が認められる例は半数以下。
血液検査では、白血球および血小板減少、AST、ALT、LDH上昇がみられる。
骨髄検査では、細胞低形成と血球貪食症候群の所見がほとんどの例でみられる。
血球貪食症候群、出血傾向(DIC)、意識障害(痙攣を含む)などが予後不良の原因となり、高齢者ほど致命率が高くなる。
致命率は23%と高い。
【診断】
・RT-PCR法による遺伝子検出:2013年3月以降、日本全国の都道府県等の衛生研究所にて実施可能。
・SFTSVの分離・同定
・急性期および回復期におけるペア血清でのSTFSV抗体価の有意な上昇
【治療・予防】
特異的な治療はない。基本的に対症療法。
リバビリンの投与効果は期待できない。
抗インフルエンザ薬のファビピラビルに治療効果が期待されている。
有効なワクチンはない。
【註記】
【参考】
・西條政幸「重症熱性血小板減少症候群」:日医雑誌 第146巻第2号 2017
・西條政幸「日本における重症熱性血小板減少症候群の流行状況と課題」:日本内科学雑誌 第106巻第3号 2017
【作成】2017-06-03