脊髄小脳失調症 spinocerebellar ataxia (SCA)

遺伝性脊髄小脳失調症 hereditary spinocerebellar ataxia (SCA)


【概念】
 脊髄小脳変性症 spinocerebellar degeneration (SCD)のうち、わが国では遺伝性のものが約30%を占め、そのほとんどは常染色体優性遺伝である。
 遺伝性のSCDは原因遺伝子の発見順に脊髄小脳失調症 spinocerebellar ataxiaの型で命名され、現在40以上のSCA型が記載されている。
 SCDは人種差や地域差が大きく、わが国ではマチャド・ジョセフ病(MJD)、SCA3、SCA6、SCA31、DLPLAが大部分を占め、他の病型はまれである。
 欧米に多いフリードライヒ失調症は日本ではきわめてまれ。

【病態生理】
 遺伝子変異は次の3タイプに大別される。
① エクソンのCAGの3塩基繰り返し配列(リピート)の異常伸長(ポリグルタミン病)
② 通常の点変異や欠失
③ 非翻訳領域のリピートの異常伸長
 ①ではリピート数が大きいほど発症年齢が若く、重症化する。表現促進現象 anticipation(世代が降りるごとに発症年齢が若くなる)は、CAGリピートが不安定で、世代間で異常伸長することに対応する。
 変異蛋白は凝集しやすく、核内や細胞質内に凝集体または封入体を形成し、その過程で細胞機能を障害し、最終的には神経細胞死をきたす。

【臨床症状】
 SCA6、SCA31などは、ほぼ小脳失調症状(失調性歩行、四肢協調運動障害、書字障害、失調性構音障害、眼振)と筋トーヌス低下のみを呈し、純粋小脳失調型と呼ばれる。
 MJD/SCA3、SCA1、SCA2、DRPLAでは小脳系以外の系統も傷害され(多系統障害型)、小脳症状に加えパーキンソニズム、不随意運動、錐体路徴候、自律神経症状、末梢神経障害などが様々な組み合わせで様々な程度に出現する。しかも経過とともに既存症状の重症化のみでなく病像そのものが変化することもある。

【検査所見】
 MRI検査が最も重要となる。
 SCA6、SCA31では小脳虫部前方優位に小脳皮質の萎縮がみられる。
 多系統障害型では脳幹の萎縮が加わる。
 電気眼神経図では小脳性眼球運動障害の定量的評価が可能となる。
 血液、尿、髄液検査では有意な所見はみられない。

【治療】
 有効な治療はない。
 機能保持を目的にリハビリテーションが行われる。
 運動失調に関してはTRH製剤である酒石酸プロチレリン静注やTRH誘導体のタルチレリン水和物の内服が用いられることもある。


【註記】


【参考】


【作成】2017-09-30