SARS

重症急性呼吸器症候群
severe acute respiratory syndrome (SARS)


【概念】

 2003年に出現した重症の呼吸器感染症で、新型のコロナウィルスが原因となる。

【病原体】

 コロナウィルス科に属するSARSコロナウィルス SARS-CoV。
通常のヒトコロナウィルスには血清型による3群があるが、SARS-CoVはいずれにも属さない新型。
 2002年11月頃に中国広東省で突然発生し、2003年2月下旬より世界的なアウトブレイクを起こした。SARS可能性例は全世界で8,000例以上にのぼり、774例の死亡者(死亡率9.6%)を出したが、2003年7月以降の流行はいったん終息している。

【疫学】

・1類感染症
・感染様式:飛沫感染または接触感染でヒトからヒトへ拡がる。
 SARS患者の中には多量の感染性SARS-CoVを排出する者(スーパースプレッダー)が存在し、その周辺で観戦が拡大する。
 ただし、基本的にヒトからヒトへの感染リスクは低く、世界的な大流行の危険性は少ない。
・自然宿主は不明だが、ハクビシンやキクガシラコウモリなどが疑われている。

【病理】

 肺間質へのリンパ球およびマクロファージの浸潤と、肺胞における硝子膜形成で、diffuse alveolar damege (DAD)像を呈する。

【臨床症状】

・潜伏期間:2〜10日
・初発症状:38℃以上の高熱(ほぼ必発)、頭痛、筋肉痛などインフルエンザ様症状。
 鼻汁、咽頭痛などの上気道炎症状は通常みられない。
・3〜7日後に呼吸困難、乾性咳嗽、低酸素血症などの下気道炎症状が出現し、胸写上肺炎像が見られる。その後多くは約1週間程度で回復するが、20〜25%の症例で呼吸不全が増悪して急性呼吸促迫症候群(ARDS)が出現し、その約半数が死亡する。
 消化器症状としての水様性下痢も約25%にみられる。
・全体の致死率は約10%。65歳以上の高齢者の死亡率は高く(約50%)、若年者の予後は比較的良好。

【伝播可能期間】

・無症状期における感染力はほとんどないと考えられる。
・前駆期に相当する発熱・咳嗽期は、感染力は弱いが十分な警戒が必要。
・発症後5日目以降に感染のリスクは高くなる。
・肺炎の極期、そして重症者ほど感染力が強い。

【検査】

・リンパ球減少、特にCD4リンパ球が著明に低下する。
・軽度の血小板減少やトランスアミナーゼ上昇がみられることもある。
・胸部X線写真:片側の肺野末梢有意に比較的限局した斑状影が出現し、多発性ないし両側性の浸潤影およびスリガラス状陰影に進展する。

【診断】

・RT-PCRやLAMP法による遺伝子診断がもっとも高感度で迅速。
・ウィルス分離は感度が低く時間を要する。
・IgM抗体は発症10日めに、IgM-IgG抗体は発症20日めに出現する。

【治療】

・対症療法が主。
・ワクチンはない。


【註記】


【参考】


【作成】2016-12-23