くも膜下出血 subarachnoid hemorrhage (SAH)

くも膜下出血 subarachnoid hemorrhage (SAH)


【概念】
 脳血管の破綻により脳表やくも膜下腔の脳槽に出血が生じる疾患。
 外傷性と非外傷性に分類され、非外傷性SAHの原因の80%が脳動脈瘤の破裂による。

【疫学】
 有病率は人口の2〜6%。
 年間発症率は人口10万人あたり約20人。

【脳動脈瘤】
 動脈壁の一部が局所的に拡張したもの。原因として動脈壁の脆弱化や動脈解離、感染などがある。
 形態的に嚢状、紡錘状に分類され、原因的に解離性、感染性、外傷性に分けられる。
 脳動脈瘤は多因子疾患であり、遺伝性疾患に合併しやすい。また、好発部位があり、血行力学的因子もその発生に関与する。

【病態生理】
 未破裂の嚢状動脈瘤は、薄い血管壁の動脈が外側に膨隆しており、筋層と内弾性板は動脈瘤頚部で終了し、嚢状部からは認められない。
 嚢状動脈瘤の約90%はウィリス動脈輪の前方部に形成される。
 前交通動脈、内頚動脈・前交通動脈分岐部、中大脳動脈分岐部の順に好発し、後方部では脳底動脈先端部に多い。
 動脈瘤が破裂すると、くも膜下腔へ出血し、頭蓋内圧亢進をきたす。それに伴い脳灌流圧が低下して脳虚血となる。
 脳底部に多量の出血をきたすと脳幹が損傷され、意識障害、呼吸不全、循環不全を生じる。
 発症から2週間前後の亜急性期には遅発性脳血管攣縮が生じ、脳梗塞に至る場合もある。
 慢性期には正常圧水頭症を認めることもある。

【臨床症状】
 大型脳動脈瘤は周囲への圧迫により症状をきたす。
 内頚動脈‐後交通動脈分岐部や脳底動脈‐上小脳動脈分岐部の動脈瘤は動眼神経麻痺をきたす。
 動脈瘤の破裂はクモ膜下出血をおこす。
 突然発症する激烈な頭痛、頭蓋内圧亢進症状としての悪心・嘔吐、めまいがみられ、髄膜刺激症状として項部硬直が認められる。
 合併症として、急性期には脳灌流圧低下に伴う重症脳虚血例で、交感神経系の過剰な興奮による不整脈やたこつぼ型心筋症を生じる。肺循環障害と透過性亢進により中枢性肺水腫が生じる。

【検査所見】
 頭部CTでくも膜下腔に高信号域が認められる。脳槽の左右差や脳室内への出血によるニボー形成がみられることもある。
 腰椎穿刺で血清髄液を認める。
 脳血管撮影検査(頭部MRA、造影三次元CT、脳血管造影)で動脈瘤が認められる。

【治療・予後】
 破裂動脈瘤には脳血管内治療であるコイル塞栓術または開頭によるクリッピング術が行われる。
 未破裂動脈瘤の年間破裂率は0.8〜0.9%前後であり、サイズが大きいものほど破裂率が高い。
 SAHの死亡率は50%程度で、発症時の重症度が転機と相関する。

【Hunt and Hess分類】 Gradeが高いほど予後が悪い。
GradeⅠ:無症状か、最小限の頭痛および軽度の項部硬直を認める。
GradeⅡ:中等度〜強度の頭痛、項部硬直をみるが、脳神経麻痺以外の神経学的失調はみられない。
GradeⅢ:傾眠状態、錯乱状態、または軽度の巣症状を示すもの。
GradeⅣ:混迷状態で、中等度から重度な片麻痺があり、早期除脳硬直および自律神経障害を伴うこともある。
GradeⅤ:深混迷状態で、除脳硬直を示し、瀕死の様相を示すもの。


【参考】