RSウィルス感染症 RSV infection

RSウイルス感染症
respiratory syncytial virus (RSV) infection


【概念】

 乳幼児にみられるウイルス性の細気管支炎、肺炎で、RSウイルスを原因とする。年長児や成人では軽症の上気道炎を起こす。

【病原菌】

 RSウイルス respiratory syncytial virus (RSV):パラミクソウイルスParamyxoviridae科ニューモウイルスPneumovirus属に属する。
 ウイルスは鼻粘膜に感染して上気道炎をおこし、その後感染性分泌物を下気道に吸引して細気管支炎の症状を起こす。
 RSウイルスは世界中に広く分布し、季節的流行を示す。熱帯や亜熱帯地域では通常雨期に流行し、温帯地域では晩秋から冬季に流行する。わが国では夏頃より流行が始まり、年末にピークを迎え、春まで流行が続く。南・西日本から東日本へと流行が推移する傾向がある。

【疫学】

・幼児肺炎の5〜40%、特に細気管支炎の50〜90%に関与する。
・季節性:晩秋から初春にかけて。
・感染性:ヒトからヒトへの接触感染、または飛沫感染。空気感染はない。
 ウイルスは感染性物質への接触により、鼻咽頭や眼球結膜で増殖することにより感染が成立する。
・好発年齢:2歳までにほぼ100%の児童が感染する。

【臨床症状】

 RSウイルス感染は2歳未満の乳幼児においては細気管支炎の主要な原因となる。2〜3日程度の鼻汁・鼻閉などの上気道炎症状に引き続き、咳嗽や喘鳴を呈する細気管支炎症状が出現することが多い。多呼吸、陥没呼吸など急速に呼吸状態が悪化することがあり、無呼吸発作や呼吸不全などの重症合併症を伴うこともある。
 1週間以内に症状のピークを迎えるが、症状消失には2〜3週間かかることが多い。再感染時は軽症であることが多い。

・潜伏期間:3〜5日(平均4日)。
・乳幼児では下気道炎、成人では上気道炎が主。
・乳幼児:有熱性の上気道炎で発症し、数日後に下気道炎を呈する。
 上気道炎症状:水様性鼻汁、咳など。ときに発熱をきたす。
 細気管支炎症状:激しい咳、吸気性喘鳴、多呼吸、陥凹呼吸、呼吸困難などがみられ、熱は下がることがある。
 乳幼児では嗜眠、哺乳力低下、ときに無呼吸発作(特に生後1ヶ月未満の新生児)などもみられる。
 胸写ではびまん性の肺気腫像(肺の過膨張所見)がみられる。肺実質に広範な炎症をきたしても、明らかな異常所見を呈さないことがある。
 罹患後、長期にわたって肺機能異常を呈し、喘鳴をくりかえすこともある。
・年長児、成人:主に上気道炎。ときに気管・気管支炎。高齢者では肺炎も起こる。

<RSウイルス中耳炎>
 RSウイルスの気道感染に続発して急性中耳炎を発症することが在る。
 その臨床的特徴は
 ①水疱性鼓膜炎:鼓膜上皮層と中間層の間で起こる強い炎症による
 ②車軸状に拡張する毛細血管の点状出血斑
 ③ツチ骨周辺の発赤(出血跡)
 2歳以下の急性中耳炎は混合感染の比率が高くなるため、AMPC投与を行う。
 3歳以上でウイルス感染性中耳炎が疑われれば、抗菌薬投与は控える。

【臨床病型】

1)上気道炎
 鼻汁、咳嗽、咽頭発赤、発熱(または無熱)
2)気管・気管支炎
 喘鳴、クループ様の咳嗽
3)細気管支炎
 喘鳴、陥没呼吸、呼気延長、胸写上の過膨張所見
4)肺炎
 ラ音、多呼吸、胸写上の浸潤影

<年齢群別の臨床的特徴>
・乳幼児:細気管支炎、肺炎、クループ症候群、無呼吸発作、上気道炎、中耳炎
・年長児/成人:上気道炎、気管支炎、肺炎(高齢者)、喘息発作(急性増悪)

【検査】

 鼻腔洗浄液、気管支分泌液を用いる迅速診断検査キットによるウイルス検出。
 乳幼児ではペア血清抗体価が上昇しないことが多い。

【治療・予防】

 主に対症療法。
 ステロイドホルモン全身投与や気管支拡張剤吸入療法の有効性は不明。
 無呼吸に対してはキサンチン製剤が治療と予防に有効との報告もある。
 重症例には人工呼吸も適応。
 ワクチンはない。
 ハイリスク児には流行時に抗RSV単クローン抗体が予防的に投与される。

<ヒト化モノクローナル抗体(パリビズマブ)の適応>
 ハイリスク群の2歳未満児に対し、冬季に毎月筋注で投与可能(保険適用)
・在胎28週以下の早産で、12ヶ月齢以下の新生児および乳児
・在胎29〜35週の早産で、6ヶ月以下の新生児および乳児
・過去6ヶ月以内に気管支肺異形成症の治療を受けた24ヶ月齢以下の新生児、乳児および幼児
・24ヶ月以下の血行動態に異常のある先天性心疾患の新生児、乳児および幼児
・24ヶ月以下の免疫不全を伴う新生児、乳児および幼児
・24ヶ月以下のDown症候群の新生児、乳児および幼児


【註記】


【参考】
・伊東宏明「RSウイルス細気管支炎」小児内科 Vol.51 No.2 2019-2
・上出洋介「RSウイルス中耳炎」小児内科 Vol.51 No.2 2019-2


【作成】2016-12-23
・2019-3-5改訂