狂犬病(恐水病)rabies, lyssa
【概念】
犬などの咬傷から感染する狂犬病ウィルスにより、筋痙攣、精神症状などを起こす予後不良の疾患。ほぼ全世界に分布している。
【病原体】
ラブドウィルス科リッサウィルス属Ⅰ型の狂犬病ウィルス rabies virus。
ほとんどの哺乳類に感染可能で、人獣共通感染症。
ウィルスは罹患動物の唾液中に存在し、咬傷から感染し、潜伏期間中局所にとどまる。その後筋組織でわずかに増殖し、神経軸索内を逆行して脊髄に達し、中枢神経系に拡大する。大脳灰白質でウィルスは活発に増殖し、神経細胞の細胞質に好酸性の封入体(Negri小体)を形成する。神経細胞死は少なく、ニューロンの機能不全が主体。
中枢神経で増殖したウィルスは末梢神経を遠心性に下降し、皮膚や唾液腺に達する。
【疫学】
・4類感染症
・感染経路:動物による咬傷または引っかき傷。
・わが国では輸入感染症としてのみみられる。
・南アジア地域や南米地域などに多く、発病すればほぼ100%致死的となる。世界中で年間5万人あまりが死亡しているが、日本では1957年以後発症例なし。
【臨床症状】
・潜伏期間:30〜90日(少数例に1年以上もあり)。
・前駆期(1〜10日):発熱、不安、焦燥感、頭痛、不眠、咬傷部の疼痛と知覚異常など。
・急性神経症状には狂騒型と麻痺型がある。
・狂躁型(80%):間欠的な不穏・興奮・錯乱がおこる。唾液の分泌亢進がみられ、咽頭筋群の痙攣とそれに伴う痛みから飲水困難となる。症状が進行するとわずかな刺激や水を見ただけで痙攣発作(恐水病・恐風症)が起こり、全身痙攣にいたる。
・麻痺型(20%):対称性の弛緩性運動麻痺が特徴で、球麻痺にいたる。
・いずれの型も、やがて麻痺・昏睡が出現し、脳圧亢進、自律神経障害、呼吸不全、腎不全で死亡する。
【診断】
・発症前に感染の有無を診断する方法はない。
・唾液からのRT-PCRによるウィルスRNA検出が最も有用。
・角膜擦過標本や項部皮膚生検によりウィルス抗原の証明。
・血清反応は抗体価が早期には上昇しないので有用でない。
【治療・予防】
・有効な治療法なく、発症後はほぼ全例が死に至る。
・暴露前に予防接種を行うと、咬傷時に追加ワクチン接種を行なうことで発症を回避できる。
・暴露後は患部を洗浄し、早期にワクチン接種を行なう。必要により、抗狂犬病ウィルスヒト免疫グロブリンの局所接種を行う。
【註記】
【参考】
【作成】2016-12-23