急性灰白髄炎(ポリオ)polio

急性灰白髄炎(ポリオ)polio


【概念】

 発熱とその後に起こる麻痺を特徴とする疾患で、ポリオウィルスによる。

【病原菌】

 ポリオウィルスpoliovirusはピコルナウィルス科エンテロウィルス属に属し、血清学的に1型、2型、3型の3種類がある。
 経口的に感染し、ポリオウィルス受容体 polio virus receptor (PVR、CD155)を介して咽頭粘膜上皮細胞や腸管粘膜上皮細胞に感染する。その後扁桃、腸管M細胞、パイエル板などのリンパ組織で増殖。リンパ流から血中に入り(ウィルス血症)、全身の親和組織に散布される。神経軸索に沿って逆行性に中枢神経系に感染するルートもある。
 脊髄前角細胞が障害されると急性弛緩性運動麻痺(ポリオ麻痺)を発症する。

【疫学】

・2類感染症
・乳幼児に好発し、夏季に多い。
・1988年にWHOより世界ポリオ根絶計画が提唱され、以後ポリオの野生株が流行している地域は減少した。2型、3型は2012年以来発生報告がなく、伝播が継続しているのは1型のみ。発生の報告があるのはパキスタン、アフガニスタンの2国のみ(2016年現在)。
・ワクチンの変異株による感染があり、わが国では90年代以降毎年数例の報告がある。
・感染者のほとんどは不顕性だが、不顕性感染者の消化管内でもウィルスは増殖し、糞便中に排泄されたウィルスは病原性を持つ。

【症候】

 感染者の90〜95%は不顕性感染。
 潜伏期間:3〜21日(通常7〜12日)、ポリオ麻痺発症までは通常7〜21日。
 病型により3型に分かれる。
1)不全型(4〜8%):1〜3日の発熱、咽頭痛などの非特異的症状(小症状)のみ。
2)非麻痺型(0.5〜1%):無菌性髄膜炎を発症するタイプ。
 小症状改善の2〜3日後に発熱、頭痛、嘔吐、項部硬直、四肢筋肉痛を訴える。
 髄液検査でリンパ球の増加がみられる。
3)麻痺型(0.3〜2%):小症状改善の2〜3日後に突然の高熱、強い筋肉痛、項部硬直、背部硬直などの症状(大症状)が出現する。高熱は3日間持続し、解熱する直前に腱反射消失を伴う非対称性急性弛緩性麻痺が出現し、数時間で麻痺が進行する(下肢に多い)。知覚障害は伴わない。
① 脊髄型:非対称性の麻痺をきたす(大部分はこの型)。
② 延随型:脳神経核が障害される。顔面麻痺、口蓋麻痺、呼吸中枢障害、循環中枢障害などをきたす。
③ 脳炎型:脳炎症状が出現する。

【合併症】

・ポストポリオ症候群:小児期にポリオ麻痺に罹患すると、30〜40年後に筋肉痛や筋力低下が出現し、歩行困難になるもの。

【診断】

・糞便と便以外の部位からのウィルス分離(2回以上)。
・ペア血清での抗体価上昇(補助的)。

【治療・予防】

・有効な治療法はない。
・予防にはポリオワクチンを用いる。
1)経口ポリオ生ワクチン oral polio vaccine (OPV)
 分泌型IgA抗体と血中中和抗体の両方が誘導できる。ただし、100万人に1人の割合でワクチン関連性麻痺 vaccine-associated polio paralysis (VAPP)が発生する。
 また、ワクチン摂取者の糞便を介してウィルスが周囲の人に感染してポリオを発症することもある(接触例)。
2)不活化ポリオワクチン inactivated polio vaccine (IPV)
 血中中和抗体のみしか誘導できないが、副反応が少ない。


【註記】


【参考】


【作成】2016-12-18