ペスト plague

ペスト plague


【概念】
 腸内細菌科のG陰性桿菌であるエルシニア属のペスト菌 Yersinia pestisによる感染症。
 感染経路は主として菌を保有する齧歯類を吸血した感染ノミの刺咬による。
 病型は腺ペスト、肺ペスト、敗血症ペストの3種があり、腺ペストが最も多い。
 日本では患者の発生は数十年間みられていない1)が、世界ではアフリカを中心に、毎年500〜1000人前後の患者が発生している2)

【臨床症状】
1)腺ペスト(80〜90%)
 病原体を有するノミの刺咬部から菌が侵入して発症する。
 潜伏期間2〜6日。急激な高熱と所属リンパ節の炎症から始まる。
 疼痛の強いリンパ節腫脹(鼠径部>腋窩部、頸部)、悪寒・戦慄を伴う発熱、頭痛など。
 適切な治療が行われれば、通常3〜5日で全身症状の改善がみられる。
 治療が行われなければ敗血症などを合併し、半数以上が死亡する。

2)肺ペスト
・原発性:病原体を含むエアロゾルを吸入し、肺への感染が起こるもの。
・二次性:腺ペストに続く敗血症から肺病変を併発するもの。
 原発性では潜伏期間1〜3日
 初発症状は急激な高熱、頭痛、咳、痰など。
 鮮紅色の泡だった血痰がみられる。
 急速に呼吸困難、低酸素血症が進行し、重篤な病態となる。

3)敗血症ペスト
 ほとんどは腺ペストなどから二次性に起こる。
 早期に治療が行われないと急激なショック、DICから多臓器不全で死亡することが多い。

【検査所見】
・白血球の著明な上昇とDICやMOFの所見
・血清中の抗 Fraction1抗体価の上昇

【診断】
・ペスト発生国におけるノミ咬傷の有無、または動物との接触歴
・血液培養やリンパ節穿刺液からのペスト菌検出
・ペア血清での抗体価の有意な上昇
・穿刺液を用いた蛍光抗体法によるF1抗原の検出
・PCR法による遺伝子検出

【治療】
・できる限り早期に抗菌薬の投与を行う。
・第一選択はストレプトマイシンやゲンタマイシン
・アミノグリコシド系、ニューキノロン系、テトラサイクリン系が有効
・重症例では全身管理が必要
・肺ペストでは飛沫感染対策、腺ペストや敗血症ペストでは接触感染対策が必要


【註記】
1)わが国での最終報告は1926年。
2)次の5つの地域で野生齧歯類間で持続的感染がみられている。
 ①南アフリカ・マダガスカル、②ヒマラヤ山脈周辺からインド北部、③中国雲南省から蒙古、④北米南西部ロッキー山脈地方、⑤南西北西部アンデス山脈地方


【参考】


【作成】2017-06-27