パーキンソン病の臨床症状
1. 筋固縮 rigidity
鉛管様現象 lead pipe phenomenon (被動時の持続的抵抗)
歯車様現象 cog-wheel phenomenon (被動時の断続的抵抗)
歯車様固縮は関節を他動的に動かすと歯車のように断続的に抵抗が感じられるもので、手関節でみられやすい。
対側肢の随意運動により増強される(一側手首を規則正しく他動的に屈曲伸展を反復しながら、他方の上肢に指折りなどの簡単な動作を命じると、手首に固縮が出現するようになる;手首固化徴候)。
抗パーキンソン薬が奏効する。
視床VL核の破壊で軽減する。
2. 振戦 tremor
4−6Hzの律動的な安静時振戦resting tremor。時にpill-rolling様(丸薬を丸めるような手指の運動)。
精神的緊張で誘発ないし増強し、睡眠で消失する。
一定の姿勢保持や随意運動の開始により減弱、消失する。
抗パーキンソン薬の効果は固縮に劣る。
視床Vim核の破壊で軽減する。
3. 運動減少 bradykinesia, hypokinesia, akinesia
寡動症 hypokinesia は主に運動の意志・企図から開始における抑制を意味し、動作緩慢 bradykinesia は運動の遂行における遅延を意味する。無動症 akinesia は主に反復運動の加速化とすくみ現象をさす。
仮面様顔貌masked-like faceは顔面における運動減少で、瞬目が少なく、こわばり前方をにらみつけるような表情となる。
動作緩慢は四肢で目立ち、手指の巧緻性動作が拙劣となる。
歩行ではすくみ足start hesitation、書字では小字症micrographia となる。
要素的には動作開始遅延、動作速度の遅延、最大効果に達する時間の延長、持続困難、運動変換困難、二つの動作の同時施行困難などがある。
視床破壊術は無効である。
4. 立ち直り反射障害、姿勢保持障害
小脳や前庭機能に関係なく、姿勢の変換や歩行を安定して行うことができない。
突進現象 pulsion sympton(押した方向に突進する)
磁石反応 magnet reaction(足を床に着けたまま、棒のように倒れる)
立位姿勢は、頭部を前方に突き出し、状態を前屈させ、全身が前方に傾く(前傾前屈姿勢)。下肢は股関節・膝関節ともに軽度屈曲する。上肢は軽度回内し、肘関節は軽度屈曲し、手はテタニー様のintrinsic plus hand を呈する。
l-DOPAは効果が少ない。
5. その他の運動・姿勢異常
歩行は小歩症 small steppage で、出だしの1歩が困難start hesitation(すくみ足)。freezing 現象は歩行が急に停止し、床に足が張り付いたようになって進めなくなる現象をいう。ただし、床に何らかの目標がある場合はかえって歩行が容易になることがある。
歩行に突進現象が加わると加速歩行 festination となる。歩行の速度が次第に増していき、最後には転倒することもある。
言語は単調 monotonous で small voice 。咀嚼・嚥下も障害される。
Myerson徴候は、眉間の叩打による瞬目がいつまでも起こる現象。
6. 精神状態
うつ傾向を示すことが多いが、抗うつ薬が必要なほどの高度のものは少ない。
ただし、血管性や高齢者、薬剤の副作用では精神症状が強いことがある。
認知症は高頻度に出現するが、高度のものは少なく、一般に、前頭葉症候群に類似した皮質下痴呆の特徴を有する。
抗パーキンソン薬の長期大量投与が認知症を促進させる可能性もある。
7. 自律神経障害
多彩な自律神経症状を高頻度に伴う。
本性に固有の症状としては、脂顔oily face、発汗過多、網状青斑、浮腫などがみられ、視床下部病変の関与が考えられている。
発汗異常としては頭部・上肢には発汗過多がみられ、抗パーキンソン薬に反応するが、下半身の発汗低下は発汗神経遠心路の機能低下によると考えられ、抗パーキンソン薬は無効である。
自律神経不全症一般に共通する症状としては、便秘・排尿障害の頻度が高く、起立性低血圧などもみられる。
軽症例にみられる便秘は肛門括約筋のジストニアによる排便障害であり、apomorphine の皮下注射が有効であるが、進行例では自律神経機能障害による腸管蠕動運動障害が加わる。
排尿障害は一般に利尿筋過反射型の無抑制膀胱により、頻尿、尿意切迫、切迫性尿失禁などの臨床像を示す。
起立性低血圧は、早期ないし軽症例では稀だが、重症例ではみられやすい。軽症例ではむしろ食後性低血圧の頻度がより高い。
【註記】
【参考】
【改訂】2017-02-01