脳血管障害分類(NINDS-Ⅲ)

脳血管障害分類
Classification of cerebrovascular disease
(NINDS-Ⅲ)

米国 NIH Ad Hoc Committee 分類 第3版(1990) 


【臨床的分類】

A.無症候性 asymptomatic

B.局所脳機能障害 focal brain dysfunction

 1.一過性脳虚血発作 transient ischemic attacks (TIAs)
   a.内頚動脈系 carotid system
   b.椎骨脳底動脈系 vertebrobasilar system
   c.両方 both
   d.局在不詳 uncertain location
   e.TIA疑い possible TIA

 2.脳卒中 stroke
   a.病期 tempolal profile
      1)回復期 improving
      2)悪化期 worsening
      3)安定期 stable storke
   b.病型 type of stroke
      1)脳出血 brain hemorrhage
      2)くも膜下出血 subarachnoid hemorrhage (SAH)
      3)動静脈奇形に由来する頭蓋内出血
        intracranial hemorrhage from arterio-venous malformation (AVM)
      4)脳梗塞 brain infarction
       a)発症機序 mechanisms
         ⑴ 血栓性 thrombotic
         ⑵ 塞栓性 embolic
          ⑶ 血行動態性 hemodynamic
       b)臨床分類 clinical categories
         ⑴ アテローム血栓性 atherothrombotic
         ⑵ 心原性塞栓性 cardioembolic
         ⑶ ラクナ lacunar
         ⑷ その他 other
       c)部位による症候 simptons and signs by site (distribution)
         ⑴ 内頚動脈 internal carotid artery
         ⑵ 中大脳動脈 middle cerebral artery
         ⑶ 前大脳動脈 anterior cerebral artery
         ⑷ 椎骨脳底動脈系 vertebrobasilar system
           ⒜ 椎骨動脈 vertebral artery
           ⒝ 脳底動脈 basilar artery
           ⒞ 後大脳動脈 posterior cerebral artery

C.血管性痴呆 vascular dementia

D.高血圧性脳症 hypertensive encephalopathy

【定義】
 脳血管障害 cerebrovascular diseaseとは、「脳の一部が虚血あるいは出血により一過性または持続性に障害を受けるか、脳の血管が病理的変化により一時的に侵される場合、またはこの両者が混在するすべての疾患」である。

【解説】
1, 一過性脳虚血発作
 一定の血管系の循環障害により、局所神経症候が急速に発症し、24時間以内に完全に消失する病態。大部分はアテローム硬化が原因となる。多くは大動脈や内頚動脈分岐部の潰瘍性アテロームに付着した壁在血栓が遊離して脳動脈に塞栓を起こす。心臓由来の栓子によって起こるものもある(microembolic TIA)。
 高度の狭窄や閉塞に加えて、血圧低下や心拍出量低下が誘因となって発症するものもある(hemodynamic TIA)。画像検査上の責任病巣の有無に関してはまだ一定の基準がない。

2. 完成型発作
1) 脳出血
 高血圧性脳出血は脳内小動脈(100〜300μ)の血管壊死に起因した脳内小動脈瘤の破綻によって起こる。被殻・視床・橋・小脳の順に高度かつ高頻度に認められ、発生には高血圧の関与が強い。高血圧のない高齢者では amyloid angiopathy によるものがある。髄膜・大脳・小脳、特に後頭葉の皮質に頻発し、再発しやすい。若年者の場合、小さな脳動静脈奇形、血管腫の破綻によるものがある。多くは皮質・皮質下出血の形をとる。

2) くも膜下出血
 非外傷性SAHの大部分は頭蓋内嚢状動脈瘤の破裂による。動脈瘤は動脈分岐部に発生しやすく、内頚動脈−後交通動脈分岐部、中大脳動脈三叉部、前交通動脈にそれぞれ約30%にみられる。その他、脳動静脈奇形によるものもある。約10〜15%は原因不明である。

3) 脳梗塞
 発生機序により血栓性、塞栓性、血行動態性に分けられる。臨床病型としてはアテローム血栓性、心原性塞栓性、ラクナ梗塞に分けられる。

アテローム血栓性
 頭蓋外あるいは頭蓋内主幹動脈の粥状硬化を基盤として起こる。一般にプラークにより内腔狭窄をきたし、それに血栓形成が加わって動脈を閉塞する。プラーク内の出血やプラークの破綻によって急速に閉塞が起こることもある。病巣形成は閉塞そのものによる灌流域の虚血が関与する場合と、血圧低下などの血行力学的変化が関与する場合(境界域梗塞)とがある。また、プラークに形成された血栓の遊離による塞栓(artery-to-artery embolism)もある。粥状硬化の形成には糖尿病、高脂血症が強く関与するとされ、高血圧、加齢がそれを助長する。

心原性塞栓性
 塞栓源になるのは心腔内に血栓を形成しうる心疾患(心房細動、心房粗動、急性期心筋梗塞、僧帽弁・大動脈弁膜症、心筋症など)である。心臓に逆シャントがある場合、静脈血栓も塞栓源になりうる。心内血栓は心不全、脱水が加わったときに形成されやすい。

ラクナ梗塞
 脳の深部にみられる小さな病巣(直径1.5cm以下)をいうが、臨床的にも用いられる。レンズ核線状体動脈や橋の傍正中枝の血流障害によって起こる(これらの動脈は主幹動脈から逆方向に分岐しているので血圧の影響を強く受ける)。高血圧性の動脈病変によるものが大部分を占めるが、糖尿病性の細動脈病変、時に小動脈の粥状硬化によるものもある。