多系統萎縮症の診断基準(厚生労働省)
1.共通事項
成年期(>30歳以降)に発症する。主要症候は小脳症候、パーキンソニズム、自律神経障害である。発病初期から前半期にはいずれかの主要症候が中心となるが、進行期には重複してくる。ほとんどは孤発性であるが、ごくまれに家族発症が見られることがある。
2.主要症候
① 小脳症候:歩行失調(歩行障害)と声帯麻痺、構音障害、四肢の運動失調又は小脳性眼球運動障害
② パーキンソニズム:筋強剛を伴う動作緩慢、姿勢反射障害(姿勢保持障害)が主で(安静時)振戦などの不随意運動はまれである。特に、パーキンソニズムは本態性パーキンソン病と比較してレボドパへの反応に乏しく、進行が早いのが特徴である。例えば、パーキンソニズムで発病して3年以内に姿勢保持障害、5年以内に嚥下障害をきたす場合はMSAの可能性が高い。
③ 自律神経障害:排尿障害、頻尿、尿失禁、頑固な便秘、勃起障害(男性の場合)、起立性低血圧、発汗低下、睡眠時障害(睡眠時喘鳴、睡眠時無呼吸、REM睡眠行動異常(RBD))など。
④ 錐体路徴候:腱反射亢進とバビンスキー徴候・チャドック反射陽性、他人の手徴候/把握反射/反射性ミオクローヌス
⑤ 認知機能・ 精神症状:幻覚(非薬剤性)、失語、失認、失行(肢節運動失行以外)、認知症・認知機能低下
3.画像検査所見
① MRI/CT:小脳・脳幹・橋の萎縮を認め※、橋に十字状のT2高信号、中小脳脚のT2高信号化を認める。被殻の萎縮と外縁の直線状のT2高信号、鉄沈着による後部の低信号化を認めることがある。(※X線CTで認める小脳と脳幹萎縮も、同等の診断的意義があるが、信号変化を見られるMRIが望ましい。)
② 脳PET/SPECT:小脳・脳幹・基底核の脳血流・糖代謝低下を認める。黒質線条体系シナプス前ドパミン障害の所見を認めることがある。
4.病型分類
初発症状による分類(MSAの疾患概念が確立する以前の分類)
・オリーブ橋小脳萎縮症:小脳性運動失調で初発し、主要症候であるもの
・線条体黒質変性症:パーキンソニズムで初発し、主要症候であるもの
・シャイ・ドレーガー症候群:自律神経障害で初発し、主要症候であるもの
国際的Consensus criteriaによる分類(Gilman分類)
・MSA-C:診察時に小脳性運動失調が主体であるもの
・MSA-P:診察時にパーキンソニズムが主体であるもの
5.診断のカテゴリー
① Possible MSA:パーキンソニズム(筋強剛を伴う運動緩慢、振戦若しくは姿勢反射障害)又は小脳症候(歩行失調、小脳性構音障害、小脳性眼球運動障害、四肢運動失調)に自律神経症候(②の基準に満たない程度の起立性低血圧や排尿障害、睡眠時喘鳴、睡眠時無呼吸若しくは勃起不全)を伴い、かつ錐体路徴候が陽性であるか、若しくは画像検査所見(MRI若しくはPET・SPECT)で異常を認めるもの。
② Probable MSA:レボドパに反応性の乏しいパーキンソニズムもしくは小脳症候のいずれかに明瞭な自律神経障害を呈するもの(抑制困難な尿失禁、残尿などの排尿力低下、勃起障害、起立後3分以内において収縮期血圧が30mmHgもしくは拡張期血圧が15mmHg以上の下降、のうちの1つを認める。)。
③ Definite MSA:病理学的に確定診断されたもの。
6.鑑別診断
皮質性小脳萎縮症、遺伝性脊髄小脳変性症、二次性小脳失調症、パーキンソン病、皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、レビー小体型認知症、ニ次性パーキンソニズム、純粋自律神経不全症、自律神経ニューロパチーなど。
・運動失調症の医療基盤に関する研究班(2017更新)
【註記】
【参考】
・難病情報センターHP
【作成】2017-10-06