もやもや病 Moyamoya disease
【概念】
両側内頚動脈終末部を中心に生じる進行性の狭窄および閉塞。
徐々に進行する脳虚血を代償するために側副血行路としてレンズ核線条体動脈などの穿通枝が拡張して「もやもや血管」を形成するのが特徴。
感受性遺伝子は17q内のRNF213であることが報告されている。
脳血管撮影でもやもや病様の所見を呈しながら、自己免疫疾患、放射線照射、髄膜炎、神経線維腫症Ⅰ型、ダウン症候群などの基礎疾患を有するものは「類もやもや病」と定義されている。
【臨床病型】
1)小児もやもや病
大部分の小児は脳梗塞あるいはTIAで発症する。
ピークは5〜6歳で、発症には血行力学的脳虚血が関与し、過換気でTIAが誘発されることが多い。
他に頭痛、てんかん、不随意運動など多彩な神経症状を呈することがある。
2)成人もやもや病
成人の場合、脳梗塞・TIAのほかに頭蓋内出血で発症することもあるのが特徴。
ピークは40歳で、約半数が脳梗塞・TIA、その他は頭蓋内出血を起こす。
脳梗塞・TIAの発症機転は小児同様に血行力学的脳虚血が関与する。
頭蓋内出血は、次の2つの発症機転が考えられる。
① 側副血行路として拡張している穿通動脈(もやもや血管)にかかる血行力学的ストレスが穿通動脈の破綻を招くため、大脳基底核・視床や脳室上衣下で発症する脳内出血。
② 側副血行路として機能する椎骨脳底動脈系に発生する嚢状動脈瘤の破裂によるクモ膜下出血。
【検査所見】
1)MRI・MRA
脳梗塞は分水嶺を中心とする大脳皮質あるいは白質に出現することが多い。
T1強調像では大脳基底核〜半卵円中心に存在する拡張したもやもや血管が flow void signalとして検出される。
T2*あるいは susceptibility-weighted MRIでは大脳基底核や側脳室近傍の白質に存在する微小出血 microbleedsが検出できる。微小出血は成人の16〜44%にみられ、脳出血が好発する領域に多い。
MRAではウィリス動脈輪の主要分枝の狭窄・閉塞、もやもや血管などを検出できる。
罹患動脈では内腔の狭小化 luminal stenosisのみならず、外径の縮小 shrinkageも特異的に認められる
2)脳血管撮影
もやもや病診断の gold standardであり、内頚動脈終末部の狭窄や閉塞、もやもや血管が描出される。
3)SPECT・PET
脳SPECT:安静時に加えてアセタゾラミド負荷時の脳血流量(CBF)を測定することにより、脳血管反応性 cerebrovascular reactivity (CVR)を算出することで脳循環予備能を推測できる。
脳PET:CBFに加えて、CBV (cerebral blood volume)やOEF (oxygen extraction fraction)が測定可能。
【治療】
有効性が確認された内科的治療はない。
TIA、脳梗塞やてんかん発作、不随意運動などのエピソードを有し、SPECT/PETで脳灌流圧の低下が証明される例には脳血行再建術が検討される。術式には以下のものがある。
① 直接バイパス術:浅側頭動脈‐中大脳動脈吻合術(STA-MCA anastomosis)など
② 間接バイパス術:硬膜、側頭筋などの有茎組織を脳表に接着させる
③ 複合的バイパス術:両者を同時に実施する
【参考】
・黒田敏「もやもや病」:日本医師会雑誌 第146巻・特別号(1) 2017