マルキアファーヴァ・ビニャミ病

マルキアファーヴァ・ビニャミ病(一次性脳梁変性症) 
Marchiafava-Bignami disease


【概念】

 脳梁の1次的脱髄を主病変とする中年以降発症の変性疾患。
 Marchiafava & Bignami (1903) によって報告された、アルコール多飲者に生じる脳梁の対称性壊死を特徴とする疾患。Dago-red wine を嗜好する中年以降(40〜60代)のイタリア人男性に好発し、中毒または風土病が疑われたが、その後他国でも報告がみられるようになった。ほとんどの症例に並外れたアルコール歴が認められている。
 従来の報告の半数以上をイタリア人、フランス人が占め、本邦の報告例はきわめて少ないが、そのほとんどは日本酒の常用者である。

【病理】

 脳梁の1次性脱髄(特に前方1/3)を特徴とし、最外層は残存している。脱髄巣には脂肪顆粒細胞が出現するが、グリオーシスは軽度である。左右半球(前交連や半卵円中心)には脳梁に続く脳梁放線に沿ってある程度の変性がみられることがある。

【臨床】

 急性期には多彩な脳症が比較的急性に出現し、特異的症状に乏しい。
・意識障害:一過性昏睡または混迷状態が突然発症することが多い。多くは1週間以内に改善するが、軽度の意識障害は遷延することが多い。意識回復後は見当識障害、記銘力障害を一過性に認めることが多い。
・性格変化:攻撃的または感情鈍麻、多幸症などがみられる。
・痙攣発作:約半数の例にみられる。
・構音障害:高頻度に出現し、slurred speech と記載されることが多い。
・筋緊張亢進:約半数にみられ、筋強剛や Gegenhalten が加わることが多い。
 これらの急性期症状の多くは改善消失するが、慢性期になると半球離断症状が明らかになるのが特徴とされる。左手の失行・失書、触覚性呼称障害が最も高頻度で、その他左耳の消去現象、左視野の失読、拮抗失行、他人の手徴候、交叉性視覚性運動失調などもみられる。
 急激に昏睡、痙攣に陥って死亡する例も、慢性的に高度の痴呆に至る例もある。

【検査】

 CT/MRI:脳梁の萎縮所見が認められる。
 脳梁の中心性壊死は左右対称性で mass effect がなく、病変の周囲に一層の正常組織を残している。また、脳梁の壊死部に出血性変化がみられることも多い。。


【註記】


【参考】
・栗山勝、井形昭弘:Clinical Neuroscience vol.3 no.10 1985
・塩田純一、中野今治:神経内科 vol.45 no.4 1996


【改訂】2017-02-01