ラクナ梗塞 lacunar infarction

ラクナ梗塞 lacunar infarction


【概念】
 ラクナ梗塞は、中大脳動脈や脳底動脈などの脳主幹動脈から直接分岐する単一の穿通枝動脈閉塞による脳深部の梗塞で、直径15mm以下のもの。
 病理学的観点からは、ラクナ梗塞は脳症血管病変 small vessel disease (SVD)の一部であり、径500μm未満の小動脈の破綻ないし機能不全による種々の病態(微小梗塞、大脳白質病変、微小出血、高血圧性脳出血など)を包括する概念でもある。

【病態生理】
 病理学的に、穿通枝動脈(径200μm以下)の硝子変性 lipohyalinosisによる破綻が主体のものは、直径3〜7mmの微小梗塞の原因になると考えられ、その多くは無症候性に終わっている可能性が高い。
 穿通枝動脈の微小粥腫microatheromaにより、径400〜900μmの血管が閉塞して生じるものは直径10mm以上の小梗塞巣となり、ラクナ症状をきたす可能性が高い。
 穿通枝動脈は血管内皮細胞とその周皮細胞によって構成され、血管平滑筋細胞で覆われた主幹動脈から直角に分岐しており、血圧の緩衝効果がまったくないため高血圧による血管損傷の影響を直接受けると考えられる。そのため高血圧が最大の危険因子となる。
 その他、糖尿病、脂質異常症、喫煙などが危険因子となりうる。
 CADASILやFabry病などの遺伝性のものもあり、膠原病や全身性血管炎、頭頸部への放射線照射後の血管症、血液凝固異常症、感染症なども原因となりうる。

【臨床症状】
 意識障害や高次脳機能障害が経過中なく、虚血巣に相応する症候を示す。
 過半数の症例がいわゆる古典的ラクナ症候群を呈するが、典型的なものよりも症状の一部、または組み合わさった症候を呈するものが多い。
 発症前にTIAが先行する例もあり、発症後に症状が進行ないし変動する例も20〜30%ある。

〈古典的ラクナ症候群〉
・pure motor hemiplegia
 顔面を含む運動性片麻痺:対側放線冠、内包後脚、橋底部による
・pure sensory stroke
 半側の異常感覚や感覚障害:対側の視床による
・ataxic hemiparesis
 小脳性運動失調を伴う不全片麻痺:対側放線冠、内包後脚、橋底部による
・dysarthria-clumsy hand syndrome
 構音障害と上肢巧緻運動障害:対側放線冠、内包後脚、橋底部による
・sensori-motor stroke
 半側の感覚障害と片麻痺:視床から内包後脚

【検査所見】
 急性期のCTやMRIにて、脳幹部や大脳深部の穿通枝領域に、臨床症状に対応する最大径15〜20mm未満の単一虚血病変が検出される。

【診断】
・皮質徴候を伴わない半身の神経脱落徴候があり、それに対応する単一の脳虚血病変が穿通動脈領域に認められる。
・画像上、放線冠や半卵円中心、視床、基底核、橋に直径15mm以下の病巣。
・梗塞領域を支配する頭蓋内かつ頸部の主幹動脈に50%以上の狭窄や閉塞性病変がないこと。
・大動脈弓、心臓に明らかな塞栓性病変や心房細動の合併がないこと。
・脳主幹動脈から連続していない梗塞病変であること。

*ラクナ梗塞を示唆する虚血性病変を呈しても、主幹動脈狭窄や塞栓源心疾患が併存する場合はラクナ梗塞には含まれない。

【治療】
・超急性期:発症4.5時間以内で適応基準を満たせばアルテプラーゼの静脈投与。
・急性期:抗血小板療法(アスピリン内服、オザグレルナトリウム静脈投与)。
 発症24時間以内であれば脳保護薬エダラボンを使用することもある。
・慢性期:再発予防のためアスピリン、シロスタゾール、クロピドグレルなどが用いられる。
 血圧・脂質の管理や、禁煙も重要。


【参考】
・中島誠「ラクナ梗塞」:日本医師会雑誌 第146巻・特別号(1) 2017