伝染性単核球症
infectious mononucleosis
【概念】
リンパ節腫脹、発疹、肝脾腫を主症状とする伝染性疾患で、EBウィルス感染による。
【病原体】
ヘルペスウィルス科γ-ヘルペスウィルス亜科に属するEBウィルスEpstein-Barr virus(ヒトヘルペスウィルス-4 HHV-4)。
小児期までの感染はほとんどが不顕性感染に終わるが、思春期以降の初感染で本症を発症する。
ウィルスは主にB細胞、上皮細胞に感染する。補体成分C3dの受容体である細胞表面上のCD21がEBウィルスの受容体としても作用する。また、T細胞やNK細胞にも感染しうる。
伝染性単核球症の急性期にはB細胞の1%近くがEBウィルスに感染し、B細胞の多クローン性の活性化、ウィルス抗原に反応性のCD8陽性T細胞の増大が生じる。急性期の病態はウィルス感染B細胞に対する過剰な免疫反応の結果としておこる。
感染後は無症候性に唾液中に排泄され、唾液を介して伝播される。
【疫学】
思春期の男女がキスによって感染することが多く(キス病 Kissing disease)、若年成人の初感染の約半数が本症を発症する。
【臨床症状】
潜伏期間:2〜5週
初発症状:発熱、咽頭炎、全身のリンパ節腫脹で発症する。
高熱が1〜2週間持続し、頭痛、悪心・嘔吐、関節痛、筋痛なども伴う。
肝脾腫、ときに躯幹の紅斑がみられる。
一般に約1ヶ月で治癒するが、疲労・倦怠感が数ヶ月続くこともある。
キラーT細胞やNK細胞の活性が低下していると、慢性活動性EBウィルス感染症に移行することがある。
【検査】
・血液検査:炎症反応、肝機能障害、末梢血のリンパ球増加(特に異型リンパ球が10%以上出現)。異型リンパ球は異常に増殖した細胞傷害性T細胞である。
・血清異好抗体が陽性(Paul-Bunnell反応)
・抗体検査:カプシド抗原 viral capsid antigen (VCA)、早期抗原 early antigen (EA)、核抗原 EBA-associated nuclear antigen (EBNA)を測定する。
・急性期には抗VCA-IgM抗体と抗EA抗体が陽性、抗VCA-IgG抗体や抗EBNA抗体は低値で、回復期にはこれらの値が反転する。
・抗EA-IgA抗体は慢性活動性EBV感染症などで高値になる。
【治療】
対症療法のみ。
抗ヘルペス薬は有効でない。
ペニシリン系抗生剤投与でしばしば皮疹を生じる
・慢性活動性EBウィルス感染症(CAEBV)
感染性単核球増加性様の症状が慢性的に続く疾患。
蚊に刺された部位に水疱や壊死を起こすアレルギー反応がみられることがある。
EBウィルスDNA量とウィルス抗体価の高値がみられる。
EBVはNK細胞やT細胞に感染し、種々の臓器に浸潤する。潜伏感染細胞中のがん化した細胞がモノクローナルに増殖してNK/Tリンパ腫に進行するため、予後が悪い。
・EBV関連血球貪食症候群
EBVに感染したT細胞が増殖し、大量のサイトカインを分泌することにより、それによって活性化したマクロファージがサイトカインの分泌や血球を貪食することによって起こる。
高熱、発疹、肝脾腫、多臓器障害などがみられ、致死的経過をとることもある。
・EBウィルス関連悪性腫瘍
バーキットリンパ腫、上咽頭癌、鼻性NK/Tリンパ腫、ホジキンリンパ腫、免疫不全関連リンパ腫(日和見リンパ腫)、胃癌などの発生にEBウィルスが関わっている。
【註記】
【参考】
【作成】2016-12-16