ハンタウィルス肺症候群 hantavirus pulmonary syndrome

ハンタウィルス肺症候群
hantavirus pulmonary syndrome (HPS)


【概念】

 アメリカ大陸に生息するネズミから感染する急性呼吸器感染症で、ハンタウィルスが原因となる。
 1993年にアメリカ南西部でアウトブレイクを起こし、急激な肺水腫を起こして65%の致死率を招いた。以後南北アメリカで散発的に発症がみられるが、アジア、ヨーロッパでの発生報告はない。

【病原体】

 ブニヤウイルス科ハンタウイルス属ののハンタウイルス肺症候群ウイルス Hantavirus pulmonary syndrome virus (HPS virus)、シンノンブレウイルス Sin Nombre virus。
 ネズミを自然宿主とし、ヒトに病原性をもつものは人畜共通感染症となる。
 北米ではシカシロアシマウス、南米ではコトンラットやコメネズミが媒介するが、いずれの齧歯類もわが国には生息していない。
 アメリカ大陸に分布するハンタウィルスは、ユーラシア大陸に分布し、腎症候をおこすハンタウィルスとは別の進化系統をたどっている。
 ウィルスはネズミの糞尿からエアロゾルとなって吸引され、感染を起こす。その後肺の血管内皮細胞に感染し、直接的に細胞障害はおこさず、免疫反応に伴って産生されるサイトカインが血管の透過性を亢進させ、血管外に血漿の漏出をひきおこす。

【疫学】

・4類感染症
・夏季に多く、成人男性に好発する。

【臨床症状】

・潜伏期間:1〜5週(多くは2〜3週)
・前駆期(3〜5日):発熱、頭痛、筋痛など。
・心肺症状期:頻脈、呼吸困難、低酸素血症がおこり、頻呼吸・頻脈が顕著となる。
 胸部X線上写真上は、初期の間質性陰影増強から肺底部・中心部の肺胞水腫が進行し、胸水貯留がおこる。呼吸不全の進行は急速。
・回復期:漏出した血漿が血管内に戻り、肺水腫が改善される。
・致死率は約40%で、平均8病日以内に死亡する。

【検査】

・血液検査:血小板減少(早期からみられる)、白血球増加(核左方移動)、異型リンパ球出現、ヘマトクリット上昇
・初期よりIgM抗ウィルス抗体陽性
・RT-PCRによる血中ウィルスRNAの検出

【治療】

・リバビリンは効果がない。
・しばしば人工呼吸による呼吸管理が必要となる。
・ワクチンはない。腎症候性出血熱の不活化ワクチンは有効でないと考えられている。


【註記】


【参考】


【作成】2016-12-23