HHV-6Bの中枢神経疾患
Human herpesvirus 6 (HHV-6)はβヘルペスウイルス亜科に属し、2011年にHHV-6AとHHV-6Bの2種類に分類された。
HHV-6Bは初感染で乳幼児に突発性発疹を起こすが、HHV-6A初感染の臨床像はまだ明らかでない。
突発性発疹は一般に予後良好な疾患だが、他の熱性疾患に比べ、熱性けいれんや脳炎・脳症といった中枢神経系合併症を起こしやすい。さらに初感染後に潜伏感染し、免疫抑制状態において再活性化し、脳炎を起こすこともある。
【病態】
HHV-6Bの初感染は突発性発疹で、3〜4日間持続する有熱期にウイルス血症を伴い、その後宿主免疫の誘導によりウイルス血症が消退するとともに解熱して発疹を生じる。
潜伏感染細胞は末梢血単核球(単球マクロファージ系の細胞)、唾液腺上皮、中枢神経系(主にグリア細胞)など。
臓器移植の免疫不全宿主で再活性化する場合、時期は移植後2〜4週間に集中し(CMVより早い)、約半数の患者に認められる。臨床症状は脳炎・脳症をはじめとした中枢神経系合併症、および acute graft versus host disease (GVHD)、肝炎、骨髄抑制などである。
1)初感染時の中枢神経合併症
熱性けいれんが比較的多い。複雑型の病型をとることが多い。
脳炎・脳症は年間約100例発生し、インフルエンザウイルスに次いで多い。神経症状の発現時期はさまざまで、約半数の患児が発達遅滞や麻痺などの重い神経学的後遺症を残す。
髄液中のウイルスDNA量は検出率が低く、その量も極めて少ないため、サイトカインストームによる急性壊死性脳症と考えられる。そのため治療は抗ウイルス療法よりもステロイドパルス療法や大量ガンマグロブリン療法といった抗サイトカイン療法が主となる。
2)再活性化時の中枢神経合併症
移植後急性辺縁系脳炎(post transplant acute limbic encephalitis : PALE)の病型をとることが多い。
好発時期は移植後2週間から1ヶ月半頃の早期で、記憶障害、けいれん重積、意識障害で発症する。MRIで辺縁系に高信号が認められるが、ヘルペス脳炎に比べ異常所見が海馬に限局しており、病期が進むにつれて速やかに消失するのが特徴。
約半数は記憶障害などの後遺症を残し、一部で致死的となる。
急性期脳脊髄液から高コピー数のHHV-6 DNAが検出され、剖検による病理組織学的解析で海馬にHHV-6B抗原が証明されていることから一次性脳炎と考えられる。そのため治療は抗ウイルス療法が主体となる。
HHV-6Bはウイルス特異的チミジンキナーゼを欠くのでアシクロビルは無効。
ガンシクロビル(GCV)、ホスカルネット(PFA)、シドフォビルが in vitroで抗ウイルス活性が認められており、特にPFAは2019年3月に世界で初めて造血幹細胞移植(HSCT)後HHV-6脳炎治療薬として承認されている。
3)Chromosomally integrated HHV-6
HHV-6ゲノムが宿主染色体に組み込まれて生殖細胞系を介して垂直伝搬することがあり、Chromosomally integrated HHV-6(ciHHV-6)と呼ばれる。
我が国では約0.6%、欧米では0.8%の頻度でみられる。
HHV-6のウイルスゲノムの両端部に telomeric repeat配列(TAACCC)という、ヒトのテロメア配列と相同性の高い繰り返し配列を保有しており、相同組み換えによって宿主ゲノムのテロメア領域にウイルスゲノムが組み込まれることによって起こる。
ciHHV-6患者は、移植後のウイルスモニタリングの際に、血液中や髄液中から高コピー数のHHV-6DNAが検出され、HHV-6再活性化と誤診される可能性があるが、ciHHN-6患者では血液や髄液以外にも毛包や頬粘膜からも高コピー数のHHV-6DNAが検出されるために区別できる。
【参考】
・三宅未紗、河村吉紀、吉川哲史「HHV-6Bの中枢神経病原性に関する最近の話題」小児内科 Vol.52 No.3 2020-3