腎症候性出血熱 hemorrhagic fever with renal syndrome

腎症候性出血熱
hemorrhagic fever with renal syndrome (HFRS)


【概念】

 ネズミを宿主とするハンタウィルスの感染によっておこる感染性疾患で、出血傾向や腎機能障害をきたす。
 1951年の朝鮮戦争時に国連軍兵士に流行して3000人あまりが発症し(韓国出血熱)、1978年に原因ウィルスであるハンターンウィルス Hantaan virusが発見された。その後、ユーラシア大陸に分布しているネズミたちから、ヒトに腎症候をおこす数種類のハンタウィルスが同定された。
 ウィルスは腎実質の血管内皮細胞に感染するが、直接の細胞障害はきたさず、免疫反応に伴って産生されるサイトカインが血管の透過性を亢進させることにより、血管外に血漿が漏出する。

【病原体】

 ブニヤウイルス科ハンタウイルス属のハンタウイルス Hantavirus。
 ドブネズミが媒介するソウル型とセスジネズミが媒介するハンターン型の各血清型のウイルスは重症のHFRSを引き起こすことが多い(致死率約10%)。
 北欧のヤチネズミによる軽症型は発熱、蛋白尿などがみられるのみで、出血はなく回復する。

【疫学】

・4類感染症
・好発年齢:成人。男性に多い。
・ネズミが直接媒介する人畜共通感染症。ネズミの糞尿からエアロゾルとなったウィルスを吸入して感染する。
・年間に中国では数万人、韓国では数百人の患者がいるとされている。
・ヒトからヒトへの伝播は報告されていない。

【臨床症状】

 潜伏期間:1〜5週(多くは2〜3週)
・前駆期(3〜7日):発熱、筋痛、腹痛、嘔吐で発症。発熱とともに出血傾向がみられる。
 約5日間高熱が稽留したのちに突然解熱する特有の血型を示す。
・ショック期:血圧低下によるショック、後腹膜への血漿漏出による背部痛、出血傾向(血小板減少と凝固異常による)がみられ、12〜48時間続く。
・乏尿期(3〜10日):腎不全症状を呈する。
・回復期:漏出した血漿が血管内に戻り、利尿がついて回復に向かう。

【診断】

・血液検査:血小板減少(早期からみられる)、白血球増加(核左方移動)、異型リンパ球出現、ヘマトクリット上昇、腎不全所見
・尿検査:蛋白尿
・初期よりIgM抗ウィルス抗体陽性
・RT-PCRによる血中ウィルスRNAの検出

【治療】

・リバビリン:早期(発症4日以内)に使えば臨床経過の改善がみられる。
・ウイルスは70%消毒用アルコールで容易に不活化される。


【註記】


【参考】


【作成】2016-12-23