ヘリコバクター・ピロリ感染症 Hericobacter pylori infection

ヘリコバクター・ピロリ感染症 Hericobacter pylori infection


【概念】
 ヘリコバクター・ピロリは急性および慢性胃炎を引き起こし、NSAIDsが関与しないほとんどの胃十二指腸潰瘍の原因となる。また、胃癌、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病などの発症との関連性も報告されている。1994年にはWHOの国際癌研究機関(IARC)により確実な発癌因子(group 1)に認定されている。

【病原菌】
 ヘリコバクター・ピロリ Hericobacter pyloriはG陰性らせん状菌で、一端に2〜6本の鞭毛を持ち、胃粘液層を活発に運動する。
 菌は強力なウレアーゼ活性を持ち、尿素を分解し、アンモニアを産生する。このアンモニアで胃酸を中和し、菌の胃内定着を可能にする。
 菌の胃上皮細胞への付着や胃内定着は、胃上皮細胞および免疫担当細胞よりTNF-α、IL-6、IL-8などのサイトカイン分泌を誘導する。また活性酸素や誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)を介したNO産生を誘導し、これらはDNA障害作用を持ち、胃粘膜障害の一因となる。

【疫学】
 感染は口‐口感染および糞‐口感染による。
 ピロリ菌は胃内に定着するが、多くの菌は下部腸管に運ばれ、その形態をらせん状菌 helical formから球状菌 coccoid formへと変形させる。球状菌は環境中で生残型 survival formとして機能する。
 ピロリ菌の感染率は開発途上国で高く、先進国で低い。
 わが国では感染率約40%であり、年長者ほど感染率が高い。
 親(特に母親)から子へ家族内感染する。

【診断】
1)侵襲的検査法:胃内視鏡検査による生検材料を使用。
・迅速ウレアーゼ試験:生検組織中のウレアーゼを検出。
・鏡検法:HE染色、アクリジンオレンジ染色、鍍銀染色などで菌本体を確認。
・培養法:スキロー培地などを用いる。
2)非侵襲的検査法:胃生検材料を必要としない。
・尿素呼気試験 urea breath test:放射線標識した尿素を経口投与し、呼気中の放射活性を測定。
・抗ヘリコバクター・ピロリ抗体測定:血液および尿中の抗体を検出。
・抗ヘリコバクター・ピロリ抗原測定:糞便中の菌をELISA法で検出。
3)除菌判定:除菌治療薬中止後4週間以後に行う。

【治療】
・一次除菌法:PPI+AMPC+CAM
・二次除菌法:PPI+AMPC+MNZ
  PPI:プロトンポンプインヒビター
  AMPC:アモキシシリン
  CAM:クラリスロマイシン
  MNZ:メトロニダゾール
・いずれも1週間の治療薬経口投与を行う。
・一次除菌法による除菌率は80〜90%(徐々に低下中)。
・副作用:下痢、軟便、味覚異常、舌炎、口内炎、皮疹など。


【註記】


【参考】


【作成】2017-08-09