ハンチントン病
Huntington disease
【概念】
舞踏運動を中心とする不随意運動と認知症を特徴とし、常染色体優性遺伝する疾患。基底核、大脳皮質の glutamic acid decarboxylase の障害によるGABA減少を本態とする。
【疫学】
欧米では100万人あたり60〜80人であるが、アジア人には著しく少ない。
基本的に発症は成人期で30代〜40代に多い。
遺伝形式は常染色体優性遺伝のみで、浸透率はほぼ100%。
【病態・病理】
原因遺伝子は第4染色体短腕末端4p16.3に遺伝子座を待つIT15で、その遺伝子のCAGリピートが正常域を越えて40以上に伸長すると本症を発症する。
20歳以下の若年発症者は父親から遺伝子を受け継ぐことが多く、リピート数もより多い傾向がある(表現促進現象)1)。
病理学的特徴は線条体の小型神経細胞の変性脱落で、線条体-淡蒼球外節系のGABA/エンケファリン含有神経細胞が早期から脱落する。また、黒質へ軸索を送る線条体-黒質GABA/サブスタンスP含有系神経細胞も遅れて脱落する。これらが不随意運動の責任病理と考えられる。
画像検査では線条体、特に尾状核の萎縮が著明で、次第に大脳皮質も前頭葉、側頭葉を中心に萎縮がおこる。これが認知症の責任病理となる。
【症状】
・舞踏運動:初発症状に多く、四肢先端部におこりやすい。歩行時や上肢動作時に著しくなる。
・認知症:晩期に出現し、性格変化(易怒性、易爆発性)をともない、ときに幻覚・妄想も加わる。
大部分の症例は舞踏運動と認知症を呈する古典型であるが、20歳以下での若年発症例は古典型とパーキンソニズムを呈する固縮型がほぼ半々となる。いっぽう、高齢発症では認知症がほとんどなく、進行もきわめて遅い。
【病型】
1)古典型:成人期(30〜50代)発症
・舞踏病;初発症状となる。四肢先端部(特に指先)に多い。
顔面(しかめ面 grimacing 、舌打ち)、体幹・四肢近位部(首振り、腰揺すり)。
興奮、精神活動、随意運動で増加し、睡眠で消失する。
構音障害、嚥下障害もみられる。
・筋緊張低下、筋の持続的活動の瞬間的停止(milkmaid phenomenon)もみられる。
・精神症状:知能低下がよくみられる。
人格障害(易刺激性、易変動性)choreopathy は特徴的。自発性低下もみられる。
精神病様症状(幻覚、妄想)は少ないが、自殺企図や犯罪行為がみられることもある。
・深部反射は正常〜やや亢進。小脳症状はまれ。感覚障害はない。
2)固縮型 rigid form (Westphal variant)
著明な筋固縮がみられるもの。
固縮が増強するとかえって舞踏病が目立たなくなる。
3) 若年型:20歳以前に発症
半数近くが固縮型を呈する。けいれん発作の頻度が非常に高い。
家族内に古典型の発症者がおり、父系からの遺伝性が強い。
【検査】
・CT/MRI:尾状核頭部の萎縮による側脳室前角の拡大が特徴的。
側脳室前角の拡大:尾状核頭部萎縮により外壁が外側に凸になる(butterfly sign)。
前頭葉に始まり、後方に拡がる大脳皮質の萎縮と淡蒼球の萎縮。
尾状核の萎縮は舞踏病の進行に比例し、大脳皮質の萎縮は舞踏病以外の症状の進行に比例する。側脳室前角の拡大は未発症の潜在者にも観察される。
【治療】
・舞踏運動には抗ドパミン作用薬(ハロペリドールなど)が有効。
・クロルプロマジンは易怒性・易興奮性や幻覚・妄想に有効。
【註記】
1)CAGリピートは継代により増加する傾向を示し、特に父系においてその傾向が強い。CAGリピートの繰り返し数が多いほど発症年齢が低く、そのため、若年発症者の遺伝子は父親由来のものが大部分である。
【参考】
・内科学(第九版):朝倉書店
・中村重信:Modern Physician vol.14 1994
・高橋千尋:臨床画像 vol.10 no.3 1994
・増田、後藤、金澤:モダンコンセプト神経5 1995
【改訂】2017-02-01