遺伝痙性対麻痺 hereditary spastic paraplegia (FSP/HSP)
【概念】
緩徐進行性の両下肢の痙縮と筋力低下を主徴とし、病理学的に脊髄の錐体路、後索、脊髄小脳路の系統変性を主病変とする、きわめて多様性に富んだ神経変性疾患。家族性痙性対麻痺 familial spastic paraplegia (FSP)、Strumpell-Lorrain病と呼ばれることもある。
遺伝形式は常染色体優性(AD-HSP)、常染色体劣性(AR-HSP)、X染色体連鎖性遺伝(XL-HSP)、ミトコンドリア遺伝(mt-HSP)が存在するが、孤発例も少なくない。頻度はAD-HSPが多く、AR-HSPは少なく、XL-HSPとmt-HSPはまれである。
原因遺伝子としてPARAPLEGIN、SPASTIN、L1CAM、PLPなどが同定されており、分子遺伝学的分類としてSPG1〜SPG79まで60種以上の原因遺伝子が判明している。本邦のAD-HSPではSPASTINの変異によるSPG4が最も多く、約40%を占める。
【臨床症状】
臨床的には、随伴症状の有無により純粋型と複合型に分類される。
1)純粋型 pure form
痙性対麻痺を基本症状として上肢の機能は保たれ、構音障害、嚥下障害は認めない。
軽度の下肢振動覚低下、膀胱直腸症状、上肢の腱反射亢進を伴うことがある。
どの年齢でも発症し、進行や緩やかである。
2)複合型 complicated form
痙性対麻痺に加え、末梢神経障害、小脳失調、精神発達遅滞、構音障害、嚥下障害、錐体外路徴候、筋萎縮、痙攣、脳画像異常(脳梁菲薄化、白質病変)などを伴う。
全身的には難聴、網膜変性症、白内障、魚鱗症などがみられる。
一般に進行が早く、重症である。
【検査所見】
MRIで脊髄の萎縮が疑われるが、所見に乏しい。
一部に脳梁の低形成を伴う病型もある。
【註記】
【参考】
・瀧山嘉久「遺伝性痙性対麻痺とその分類」:CLINICAL NEUROSCIENCE vol.35 no.9 (2017)
【作成】2017-09-30