フリードライヒ失調症

フリードライヒ失調症
Friedreich ataxia 


【疫学】

 常染色体劣性遺伝で、幼小児期に発症する(ピークは10歳前後)。
 FRDA遺伝子は第9染色体上(9q13-q21.1)にある。
 発症率は5万人に1人で、人種間の差はない。
 罹病期間は様々だが、30〜40代で死亡するものが多い。
 本邦は欧米に比べて頻度が少なく、臨床的には知能障害や四肢筋萎縮を呈する例が多く、心筋障害を呈する例が少ないという特徴がある。

【臨床】

 下肢の失調性歩行で初発する。
・運動失調:小脳障害>後索障害。下肢>上肢。
  躯幹失調(100%)、Romberg 徴候(95%)、上肢 dysmetria(89%)、
  構音障害(84%)、失調性歩行(70%)
・不随意運動:四肢・頭部の不規則な振動、舞踏病様運動、企図振戦、歩行時の動揺、
  会話時の頭部 nodding などが随意運動時のみにみられる。
・筋力低下:遠位部優位で、下肢に強い(72%)。
  筋緊張は低下し、末期には筋萎縮がみられる(64%)。
・感覚障害:下肢遠位部優位に後索性の深部覚障害がみられる(81%)。
・深部反射:通常消失(80%)、稀に亢進(下位感覚神経障害と錐体路障害の差)。
・表在反射:足底反射は初期から伸展反応を示す(錐体路障害、66%)。
・自律神経障害:排尿障害、インポテンツ、下肢のチアノーゼや発汗障害。
・眼症状:色覚異常(40%)、注視方向性眼振(76%)。外眼筋麻痺は稀。
・その他の脳幹症状:回転性めまい(50%)、聴覚障害。
・知能低下:欧米では通常みられないが、本邦では合併する例が多い。
・骨格障害:凹足 claw foot(82%)、claw hand、脊柱後側弯 kyphoscoliosis(77%) 。
・心筋障害:左室肥大、完全左脚ブロックなど。しばしば突然死の原因になる。
・内分泌障害:しばしば糖尿病・耐糖能異常を合併する。
 失調症状は緩徐進行性で、寛解はない。遷延性の経過をとり、日常動作が高度に障害される例が多い。

【検査】

 MRI:脊髄萎縮(特に頚髄領域)がみられる。
 血液検査;耐糖能異常(23%)、脂質異常、低アルブミン血症などがみられる。
 EEG:T波異常や伝導ブロック、心エコーで心室中隔肥厚などの異常所見が高頻度にみられる(90%)。
 NCV;MCVはほぼ正常だが、SCVでは振幅の著明な低下または消失がみられる。
 SEP;初期から潜時延長、振幅低下などがみられることが多い。
 VEP;潜時延長、振幅低下など(67%)。
 髄液、脳波はほぼ正常。

【病理】

 脊髄後索・側索の変性が著明。
 後索では下肢からの入力線維が走行する Goll 束の変性が著明である。
 側索では背側脊髄小脳路と錐体路に変性が目立つ。
 胸髄 Clarke 柱、延随 Monakow 核の神経細胞脱落が認められる。
 脊髄神経節では大型細胞の脱落が著明。
 小脳では、時に歯状核の細胞脱落と上小脳脚の変性がみられる。橋核や中小脳脚は保たれる。
 三叉神経、三叉神経脊髄路核、舌咽神経、迷走神経、孤束核などに変性がみられ、内側毛帯腹側にも変性がみられることがある。聴覚路、視覚路の変性もみられる。
 延髄錐体や運動野にも変性がみられるが、大脳脚や脳神経の運動核は通常おかされない。
 通常、小脳皮質、線状体、視床、黒質は障害されない。
 末梢神経では運動神経は通常正常だが、感覚神経に軸索変性がみられる。

・Friedreich ataxia with vitamin E deficiency (FAVED)

 Friedreich 失調症と同様の症状を呈し、かつ血中ビタミンEの低下を伴う疾患。
 原因遺伝子は第8染色体長腕にある。
 早期であればα-トコフェノールの補充が奏効する。

・Friedreich ataxia with hypoalbminemia and hyperlipidemia (FHH)

 常染色体劣性遺伝で、幼児期に失調性歩行で初発する。
 知能低下を認めることが多く、四肢筋萎縮が比較的強く、四肢遠位部に感覚障害を来すことが多い。凹足や心筋障害は来さない。
 全例に低アルブミン血症と高脂血症を認める。
 下腿浮腫による足指の潰瘍性脱落がみられることもある。
 CTやMRIで小脳の著明な萎縮がみられる。


【註記】


【参考】


【改訂】2017-02-01