エボラ出血熱 Ebola hemorrhagic fever
= エボラウィルス病 Ebola virus disease (EVD)1)
【概念】
・定義:エボラウィルス(フィロウィルス科)による熱性疾患(感染症法)。
アフリカ中央部の熱帯密林地帯に見られるウィルス感染症で、発疹、出血傾向、多臓器不全をきたし、致死率が高い。
1970年代より中央アフリカを中心に散発的に20回以上のアウトブレイクが報告されてきたが、2014年にギニアの集団発生から始まり、リベリア、シエラレオネ等へと拡大したものはこれまでで最大規模のものであり、WHOにより、史上3度めの「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態 Public Health Emergency of International Concern:PHEIC」に指定された2)。
2016年6月までにギニア、リベリア、シエラレオネで終息宣言が出され、以後新たな患者発生はみられていない。これら3カ国での患者数は約28,600人、うち死亡は約11,300人であった。世界各地で少数の患者発生もみられたが、全体の99%はこれら3カ国における患者だった。
【病原体】
フィロウィルス科のエボラウィルスebola virus。
長径700〜1,500nmのヒモ状、U字状、ぜんまい状の多形性を示す。
現在5種が知られている:ザイール型、スーダン型、タイフォレスト型、ブンディブギョ型、レストン型
2013〜2016にアウトブレイクを起こしたのはザイール型。
【疫学】
1類感染症
通年性に発生し、好発年齢なし。
【感染経路】
自然宿主は不明(オオコウモリの複数種が考えられている)。
ヒトからヒトへは血液・体液からの直接感染による。
空気感染はなく、発症前の無症状期には感染力はないと考えられる。
【潜伏期】
2〜21日(平均1週間)
【臨床症状】
発熱(ほぼ必発)、倦怠感で突然発症し、数日後に嘔吐や下痢などの消化器症状が顕著となる事が多い。
次いで胸・腹部痛、出血(吐血、下血)、多臓器不全を示す。
DICによる出血症状は約30%に認められ、死亡例の90%以上が消化管出血を示す(ただし出血が主症状でないこともある)。
2〜3日で急速に悪化し、約1週間程度で臓器不全をきたし死に至ることが多い。尿細管壊死による急性腎障害や血漿漏出によるショックが直接の死因となる。
致死率はザイール型で約90%、スーダン型で約50%。
高ウイルス血症、腎障害、45歳以上などが予後不良因子となる。
回復した場合でも精液や乳汁に長期間病原体が排出される場合がある。
【検査】
肝機能障害、腎機能障害、白血球・血小板の減少
【診断】
・ウィルスの分離またはPCRによるウィルスゲノム検出
・ELISAによるウィルス抗原検出
・ペア血清で抗ウィルス抗体の有意な上昇
【治療】
対症療法のみ。臓器不全に対する支持療法が重要である。
【予防・管理】
予防ワクチンなし
【註記】
1)必ずしも出血を伴うわけではないため、エボラウィルス病(EVD)と呼ばれるようになった。
2)パンデミックインフルエンザ(2009)、ポリオ(2014)に次ぐ。
【参考】
・感染症の診断・治療ガイドライン2004 日本医師会雑誌増刊 Vol.132 No.12
・国立感染症研究所HP 2014
・岡部信彦「近年問題となった新興感染症と現状」:日本内科学会雑誌 105巻11号2016
・加藤康幸「ウイルス性出血熱」:日医雑誌 第146巻第2号 2017
【作成】2016-12-12
・2017-06-03改訂