デュシェンヌ型筋ジストロフィー
Duchenne muscular dystrophy (DMD)
【疫学】
頻度は10万人当たり1.9〜3.4人。進行性筋ジストロフィーの中で最も頻度が高い。
通常、男児のみに発症する1)。
【病因】
伴性劣性遺伝。X染色体短腕上(Xp21)の欠損による。
筋細胞膜に存在するジストロフィン dystrophin の完全欠損。
ジストロフィンは分子量42万の巨大分子で、筋細胞の骨格蛋白である。ジストロフィン蛋白は筋線維膜直下に存在し、その異常により筋線維膜の脆弱化をきたし筋線維の壊死・変性が生じる。その後筋の再生が起こり、そのサイクルを慢性的に繰り返す過程で筋の脂肪化・線維化をきたし、その結果筋量・筋質が変化することで筋力低下ならびに筋の伸展制限を生じる。
【臨床症状】
初発は3〜4歳頃。それ以前にも、処女歩行の遅延や歩行開始時の起立異常がみられることもある。
初期には、腰帯筋の筋力低下により、転び易さ、登はん性起立(Gowers徴候)、脊柱前弯による動揺性歩行 waddling gait が出現する。次第に躯幹近位筋の萎縮が現れる。腓腹筋の仮性肥大は4〜5歳頃に顕著になる。
学童期頃より尖足が出現し、10歳前後で歩行不能となる。それ以降、関節の拘縮が進行し、脊柱側弯も起こる。脱力・筋萎縮は肩甲筋にも及ぶ。
顔面筋はあまり侵されないが、進行すると顎関節拘縮により咬合不全がみられるようになる。胸郭の変形は心肺機能に影響を与える。
10歳以降に呼吸筋・心筋も障害される。
嚥下筋・発語筋は侵されない。感覚障害、括約筋障害はみられない。軽度から中等度の知能低下を高率に認める。
10代半ばで臥床状態となり、やがて呼吸筋麻痺にいたる。
【検査所見】
血清CKは常に高値を示す。GOT・GPT・LDH・アルドラーゼも上昇する。
筋電図は筋原性パターンを示す。末梢神経伝導速度は正常である。
筋CTでは大殿筋が最も早期から侵される。
【病理】
筋生検では、乳児期早期より筋線維の壊死・再生、大小不同所見をみる。
HE染色等で濃染する opaque 線維がみられる。再生線維はしばしば群をなす。
ATP 染色ではタイプ1・2線維ともに侵され、タイプ2C線維(再生線維)がみられる。5、6歳を過ぎるとタイプ2B線維が欠損する。進行するにつれて筋線維は結合組織と脂肪組織に置き換わる。
骨格筋だけでなく、心筋、横隔筋も侵される。
ジストロフィン抗体染色では筋膜が全く染色されない。
【遺伝子診断】
ジストロフィン遺伝子変異は、エクソン単位の欠失60%、重複10%、点変異などの微小変異が30%程度である。
遺伝子診断は保険適応であり、全ネクソンの欠失・重複が判定できるMPLA (multiple ligation probe amplification)法で約70%の患者の遺伝子診断が可能となる。
DMDとBMDの違いは、エクソン単位の欠失・重複の合計塩基数が3の倍数かどうかで決まるという frameshift仮説で説明できる。この場合、DMDは3の倍数でなく(out-of-frame)、BDMは3の倍数である(in-frame)。
【治療】
薬物的に決定的なものはない。
ステロイドはDVDの進行予防に対する客観的な評価が得られている唯一の治療法である。通常、プレドニゾロン0.75mg/kg/日の連日投与から開始される。
【合併症の治療】
1)関節拘縮:関節可動域確保のためのリハビリテーション。
2)発達障害・知的障害:約1/3に発達障害または知的障害を合併し、広汎性発達障害や学習障害の合併も多い。
3)側弯症:歩行可能後期以降に出現しやすい。早期より姿勢管理を行い、進行性の場合は手術療法を検討する。
4)心筋症:左室駆出率50%になった頃や、左室後下壁などの局所の運動低下を認める頃よりACE阻害剤、β遮断薬の投与を開始する。
5)慢性呼吸不全:呼吸リハビリテーションは肺活量がピークを過ぎた頃や、2L以下になった頃に開始する。非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)は適切な時期・方法での導入が重要となる。
6)栄養障害:摂食困難になれば胃瘻造設も検討する。
【DMDの carrier】
ジストロフィン遺伝子変異の約2/3は母親由来であり、患児の母親や姉妹は保因者である可能性がある。
なかには軽度の仮性肥大や筋力低下を伴う症候性保因者もあるが、多くは無症状である。生検筋をジストロフィン抗体染色すると、ジストロフィン陽性の線維と陰性の線維とがモザイク状をなしている。
【註記】
1) 女児に発症する場合、ホモ接合体、Turner 症候群、X染色体転座、Lyon 仮説などで説明される。
ベッカー型筋ジストロフィー
Becker Muscular Dystrophy (BMD)
【概念】
進行性筋ジストロフィーのうち、DMD に比べ良性の経過をとるタイプ。
筋ジストロフィンの部分欠損による。
【疫学】
人口10万人当たり1人。DMD:BMD=3:1
【遺伝】
X染色体劣性遺伝。遺伝子座はX染色体短腕上(Xp21)。
DMDとの違いはframeshift仮説で説明される(前述)。
【臨床症状】
乳児期の発育、発達は正常。発症は5〜10歳で、歩行異常で気づかれる。筋痛で発症することも多く、CPK 高値で見つかることもある。
罹患筋は体幹近位筋であり、顔面筋は侵されにくい。下腿の仮性肥大は著明で、ほとんどの例で認められる。腱反射は、アキレス腱以外は減弱、消失する。
歩行不能になるのは20代後半以降で生命予後はDMD に比べ、はるかによい。
関節拘縮も少なく、知能は正常。ただし、半数以上に心機能異常が見られ、早期から心不全症状を呈するものもある。
【病態】
ジストロフィンは存在するが、分子量は正常のものより小さいものが多い。
【検査】
血清CPK は中等度高値を示す。筋のジストロフィン抗体染色では、膜は染まるが、まだら状 patchy となるのが特徴。
【病理】
筋生検所見では、DMD に比べ、筋線維の大小不同がより著明である。これは肥大線維が多いためで、肥大線維には分割 fiber splitting や渦巻状 whorled fiber がみられる。中心核の出現も多い。
ATP 染色ではタイプ1・2ともに侵され、タイプ2C線維はDMD に比べて少なく、タイプ2B線維の欠損は末期まで起こらない。
*大腿四頭筋ミオパチー Quadriceps myopathy
小児から成人にかけて、大腿四頭筋にほぼ限局して筋萎縮、筋力低下をみる疾患。発症年齢や進行の程度が様々であり、多因性の疾患と考えられるが、その多くは Becker 型筋ジストロフィーの亜型である。
【註記】
【参考】
・小牧宏文「Duchenne型/Becker型筋ジストロフィー」:小児内科 Vol.48 No.12 2016
【改訂】2017-02-04