小舞踏病 chorea minor

小舞踏病(シデナム舞踏病)
chorea minor (Sydenham chorea)


【概念】

 A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)による急性上気道炎に引き続きおこるリウマチ熱rheumatic feverの大症状のひとつとして生じる不随意運動で、上肢先端の不規則な舞踏病運動が典型的。

【疫学】

 リウマチ熱の10〜15%に出現。5〜15歳の学童にみられ、やや女性に多い。

【病態生理】

 先行する溶連菌感染によって生じた溶連菌菌膜成分に対する抗体は大脳基底核にも反応する。この抗神経抗体ないし感作リンパ球が大脳基底核の神経細胞を障害し、基底核の興奮系(ドーパミン作動系)が抑制系(GABA作動系)に対し優位となって不随意運動が生じると考えられる。
 病理的には大脳半球、特に尾状核頭部に非特異的脳炎様所見がみられるが、脳幹や小脳はほとんど侵されない。

【臨床症状】

 溶連菌感染後2〜7ヶ月の潜伏期間を経て徐々に上肢遠位に不規則ですばやい不随運動が生じる。通常両側性だが、まれに一側性 hemichorea。
 不随意運動は四肢の遠位部に強い比較的速い不規則な舞踏病様運動で、一定の筋収縮を保持することが困難である。筋緊張は低下する。
・milkmaid grip (握る力が絶えず変動する)
・darting tongue (舌を提出させると、不規則に引っ込める)
・pronator sign (両手を頭の上で合わせると、徐々に前腕が回内する)
・choreic hand, grimacing (手関節屈曲、中手基関節伸展、指の過伸展、拇指内転)
・hung up reflex (深部反射で、弛緩の途中に一度動きが止まる)
 
 通常、不随意運動以外の神経症状はまれであるが、ときに不随意運動に先行して著明な筋力低下を示すものもある(chorea mollis)。
 経過中に心筋炎や関節炎をみることもある。

【経過】

 通常2〜3ヶ月で消退するが、1/3に再発がみられる。

【合併症】

 リウマチ熱として、発熱、関節痛、心炎、多発関節炎、輪状紅斑、皮下小結節などがみられることがあるが、頻度は多くない(約25%)。心合併症の有無が生命予後を左右する。

【治療】

・舞踏病にはドーパミン受容体遮断薬(ハロペリドールなど)が有効。
・再発予防にはペニシリン系抗生剤を長期投与。


【註記】


【参考】


【改訂】2017-02-25