クラミジア・トラコマティス感染症 Chlamydia trachomatis infection

クラミジア・トラコマティス感染症
Chlamydia trachomatis infection


【概念】
 クラミジア・トラコマティスChlamydia trachomatisによる感染症で、性感染症(STI)の一種。衛生状態の悪い地域では小児に眼感染症を起こし、後天性失明の原因となる。

【病原体】
 クラミジア・トラコマティスChlamydia trachomatisには、トラコーマおよびLVG (lymphogranuloma venereum)の2つの生物型があり、LVG型は鼠径リンパ肉芽腫の原因となる。
 トラコーマ型には血清型はA〜Kがあり、A〜Cは眼クラミジア感染症、D〜Kは性器クラミジア感染症をおこす。
 トラコーマ生物型は扁平上皮細胞に感染し、再感染をきたしうる。LGV生物型は侵襲性が高く、リンパ球にも感染する。
 持続あるいは再燃する炎症は粘膜細胞に損傷を与えて線維化や肉芽形成をきたし、眼感染症では角膜への白血球浸潤およびパンヌスと呼ばれる表層の血管増生、結膜の瘢痕化によって内反した睫毛による角膜損傷などが関与して失明に至ることがある。

【疫学】
 日本で最も多い性感染症であり、感染症法の五類感染症。
 15〜40歳の性的活動期に多く、ピークは20〜24歳。
 検診では正常妊婦の3〜5%に無症候保菌者が見つかる。
 日本ではトラコーマの血清型A〜CやLGV生物型の感染症はまれ。

【臨床症状】
〈女性〉
・子宮頸管炎:85%が無症状。帯下量増加や不正出血などがみられることもある。
・尿道炎:ほとんどが無症状。
・骨盤内炎症症候群 pelvic inflammatory syndrome (PIS):腰痛や骨盤痛など。
・肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群):骨盤内炎症症候群に続いて腹腔内にも炎症が波及したもの(PISの5〜15%に合併)。右上腹部痛や胸膜痛など。

〈男性〉
・尿道炎:感染後5〜10日で発症。粘液性または水様の尿道分泌物。
・精巣上体炎:片側性の精巣の圧痛、腫脹、水腫など、
・前立腺炎:慢性前立腺炎の原因として疑われる。

〈合併症〉
・淋菌感染症:頻度が高い。
・不妊症・子宮外妊娠:骨盤内炎症症候群の治癒後の瘢痕化による卵管狭窄が原因となる。
・反応性関節炎:Reiter症候群(関節炎、ブドウ膜炎、尿道炎)がみられることがある。
 尿道炎発症後、反応性関節炎は数日〜数週間遅れて発症し、典型的には単関節炎または多発関節炎となる。

【検査所見】
 特異的な所見はみられない。

【診断】
 遺伝子診断が一般的。PCR法、SDA法、TMA法など。

【治療】
・アジスロマイシン、ドキシサイクリン、レボフロキサシン経口投与が有効。
・骨盤内炎症症候群にはドキシサイクリンに、第3世代セフェム系かセフェマイシン系とメトロニダゾールを加える。
・ドキシサイクリン、レボフロキサシンは妊婦には禁忌。


【註記】


【参考】


【作成】2017-08-09