脳出血 cerebral hemorrhage

脳出血 cerebral hemorrhage


【概念】
 脳実質内の血管の破綻により、脳内に出血を生じる疾患。
 既往もしくは発症時に高血圧が認められ、それ以外の原因が明らかでないものを高血圧性脳(内)出血という。高血圧性脳出血を原発性脳出血、その他の原因によるものを続発性脳出血と分類する。

*脳出血 cerabdral hemorrhageは、脳実質内に血腫を生じる脳内出血 intracerebral hemorrhage (ICH)とほぼ同義語に用いられるが、頭蓋内出血 intracranial hemorrhageを意味する場合は、脳内出血に加え、クモ膜下出血、硬膜下血腫、硬膜外血腫なども含まれる。

【疫学】
 脳出血は脳卒中全体の約15%を占め、年間死亡者数は約3万人。

【病態生理】
 脳内小動脈(50〜200μm)の血管壊死、フィブリノイド変性による脳内小動脈瘤の破裂に起因する。
 急性期には出血中心部の凝血塊と周辺部の浮腫を伴う虚血性変化を示す神経細胞とグリア細胞が認められる。
 血腫により脳組織が傷害され、傷害部位に応じた局所神経脱落症状がみられる。
 大出血や脳室穿破による水頭症が生じた場合、頭蓋内圧が亢進し、脳ヘルニアをきたすことがある。

【分類】
 血腫の出現部位により、被殻出血、視床出血、皮質下出血、脳幹(橋)出血、小脳出血に分類される。被殻と視床に血腫がまたがるものを混合型出血といい、尾状核出血を加える場合もある。
 病因論的分類としてはSMASH-U分類(2012)がある。

〈SMASH-U分類〉
 ① 外傷に起因する硬膜外出血や硬膜下出血、くも膜下出血、血管奇形などの器質的血管病変(S)
 ② 抗凝固薬や抗血小板薬などの内服薬(M)
 ③ アミロイド血管病(A)
 ④ 凝固異常、がん、重症感染症、肝硬変、膠原病など全身性疾患(S)
 ⑤ 高血圧(H)
 ⑥ 分類不能(U)
*頻度的には高血圧(35%)>アミロイド血管病(20%)>抗血栓薬(14%)

脳出血の主な原因

【臨床症状】
 覚醒時に発症することが多く、突然の局所神経脱落症状が出現する。
 血腫の増大に伴い、意識障害の悪化や、頭蓋内圧亢進に伴う頭痛、悪心・嘔吐がみられる。
 被殻出血、視床出血、脳幹出血、小脳出血は主たる危険因子が高血圧であることから高血圧性脳出血に分類されるが、皮質下出血は背景にアミロイドアンギオパチーが存在することが多い。 

1)被殻出血 putaminal hemorrhage(29%)
 対側の片麻痺と感覚障害がみられる。一般に片麻痺の程度が感覚障害より強い。
2)視床出血 thalamic hemorrhage(26%)
 対側の感覚障害と片麻痺がみられる。一般に感覚障害が片麻痺よりも強い。
 上部脳幹に障害がおよぶと、鼻先を見つめるような両眼球の内下方への共同偏視がみられ、病巣側の縮瞳・対光反射消失が認められる。
3)皮質下出血 subcortical/lobar hemorrhage(19%)
 頭痛を伴い、発症時に痙攣発作がみられることがある。
 後頭葉では半盲、優位半球の側頭葉では失語、前頭葉では対側の脱力、頭頂葉では半側の感覚障害がみられる。
4)脳幹出血 brainstem hemorrhage(9%)
 四肢麻痺を伴う深昏睡となり、除脳硬直がみられる。対光反射は保たれたままで瞳孔が著しく縮小した針先瞳孔 pinpoint pupilを呈する。
 水平性眼球運動の消失、過呼吸、高熱、高血圧、発汗異常がみあれることもある。
5)小脳出血 cerebellar hemorrhage(8%)
 後頭部痛、回転性めまい、嘔吐、失調性歩行がみられる。
 血腫による第4脳室の圧迫や脳室穿破から水頭症をきたすと昏睡状態になる。
6)混合型出血 combined hemorrhage
 視床と被殻の血腫が融合した大きな血腫。
7)合併症
 脳室穿破による水頭症、脳浮腫による脳ヘルニアなどがみられる。

【臨床検査】
 頭部CT検査で急性期の脳出血は高信号域を呈し、慢性期に移行すると血腫の瘢痕を低吸収域として捉えることができる。
 頭部MRI所見は血腫内のヘム鉄の変化を反映して複雑に変化する。
 発症直後の血腫内のヘム鉄の多くは反磁性体のオキシヘモグロビン(2価鉄)であるが、血餅が水分を含むためにT1W1で軽度低信号、T2W1で軽度高信号を呈する。
 オキシヘモグロビンは数時間の経過で常磁性体のデオキシヘモグロビン(2価鉄)に変化し、T2W1で低信号を呈する。
 急性期から亜急性期にかけてデオキシヘモグロビンは辺縁から酸化されて常磁性体のメトヘモグロビン(3価鉄)に変化し、T1W1で血腫の辺縁が高信号を呈する。
 血腫が融解しメトヘモグロビンが赤血球外に流出するとT1W1、T2W1ともに高信号となる。
 慢性期には血腫は縮小し、ヘム鉄は常磁性体のヘモジデリン(3価鉄)に変化し、T1W1で低信号、T2W1では瘢痕の辺縁がヘモジデリンを反映して低信号、中心部が高信号となる。
 gradient-echo法(T2*W1)にて低信号病変として検出される微小出血 microbleed (MB)は、脳出血の危険因子とみなされる。

【治療】
 可能な限り早期からの高血圧の管理が必要となる。
 収縮期圧180mmHg未満もしくは平均血圧130mmHg未満を維持する。
 治療目標値は収縮期血圧140mmHg未満。
 2011年よりニカルジピン(ペルジピン)の点滴静注が制限緩和されている。
 頭蓋内圧亢進には高張グリセロール静脈内投与を行う(マンニトールも可)。
 適応例には外科的に血腫除去術を行う。

脳出血の手術療法

【経過・予後】
 大出血により意識障害をきたしている場合や脳ヘルニアを呈している場合は救命は困難。
 小出血の場合は予後良好である場合が多い。
 橋出血の死亡率は50%、被殻、視床、小脳では15〜20%。


【参考】
・山田貴史、長田乾「高血圧性脳出血の診断と内科的治療」:日本医師会雑誌 第146巻・特別号(1) 2017