心原性脳塞栓症 cardiogenic embolism

心原性脳塞栓症 cardiogenic embolism


【概念】
 心腔内に起因する血栓や疣贅といった塞栓子が脳動脈を閉塞して起こる脳梗塞。
 原因疾患としては心房細動が最も多く、下肢などの静脈系に生じた血栓が卵円孔や肺動静脈瘻などのシャント性疾患を介して脳動脈を閉塞する奇異性脳塞栓症も含まれる。

【疫学】
 脳梗塞全体の約28%を占める。
 加齢に伴う心房細動合併の増加により、増加傾向にある。

【病因】
 塞栓子となる血栓は心臓の左心房・左心耳、左心室、弁、静脈などで形成される。
・高齢者の非弁膜症性心房細動における左房または左心耳内血栓
・僧帽弁狭窄症や広範囲急性心筋梗塞・心室瘤、拡張型心筋症や肥大型心筋症拡張期における左心室内血栓
・血栓化機械弁
・静脈系血栓の卵円孔開存や肺動脈静脈瘻を介した奇異性脳塞栓症
・感染性心内膜炎による疣腫塞栓
・心臓腫瘍として左房粘液腫の腫瘍塞栓症
 などが原因となる。

【臨床症状】
・突発完成型の様式を呈する。
・側副血行路の発達を待たずに脳主幹動脈を閉塞させるため臨床症状は重症になりやすい。
・意識障害、失語、半側空間無視などの頻度が他の病型よりも高い(約30%)。
・早期または遅発的に自然再灌流をきたし、脳浮腫や梗塞内出血性変化 hemorrhagic transformationや血腫形成を起こしやすい。
・急性期症候性再発率が高い:2週間以内に5%。

【検査所見】
・心電図や24時間Holter心電図による一過性心房細動の検出。
・経胸壁心エコーや経食道心エコーによる心臓内血栓、心疾患の検出。
・CT:重症例では発症1時間以上で早期虚血サイン early ischemic CT signが検出できることがある。
 発症2〜3日後には明確な低吸収域となり、2〜3週目には等吸収域(fogging effect)となり、その後再び低吸収域化する。
・MRI:拡散強調画像により発症後30〜180分で高信号域が認められる。
・頸部超音波検査:内頚動脈起始部に塞栓子を oscillating thrombusとして検出できることがある。
・MRA、CTA、脳血管造影:閉塞血管は側副血行路に乏しく、自然再灌流がみられることもある。
・発症1日以降に出血性変化、血腫形成、脳浮腫、脳ヘルニアなど認めることがある。

【治療】
・アルテプラーゼ(rt-PA)静注療法や、発症6時間以内の前方循環系の脳塞栓には急性期血管内治療が適応となる。
・発症24時間以内の急性期には脳保護薬のエダラボン静脈投与が行われる。
・抗凝固療法としてヘパリン静注療法からワルファリン内服療法が行われる。
・直接作用型経口抗凝固薬 direct oral anticoagulant (DOAC)として、ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンなども用いられる。


【参考】
・菊野宗明、豊田一則「心原性脳塞栓症」:日本医師会雑誌 第146巻・特別号(1) 2017