脳アミロイドアンギオパチー
cerebral amyloid angiopathy (CAA)
【概念】
髄膜および脳内の小〜中径動脈の血管壁にアミロイド化した蛋白が沈着した状態。高齢者における皮質下出血の原因として多く認められる。また、脳梗塞、認知機能障害、一過性神経症状(TFNE)、amyroid spellや炎症/脳血管炎、亜急性白質脳症の原因にもなりうる。
【疫学】
加齢とともに有病率が上昇し、60歳以上では約半数にCAAがみられる。
アルツハイマー病では約9割にCAAがみられる。
CAA関連脳出血の発症は加齢に伴って増加し、女性に多い。
アポリポタンパクEのε4アリルはCAAと、ε2アリルはCAA関連脳出血との相関がみられる。
【病態生理】
孤発性のものと遺伝性のものとがある。
沈着したアミロイド蛋白の種類により病型分類され、孤発性CAAの大部分は神経細胞が産生したアミロイドβ蛋白(Aβ)である。Aβは神経細胞膜上のアミロイド前駆蛋白より切り出され、40個のアミノ酸からなるAβ40と42個のアミノ酸からなるAβ42が生じる。
CAAの初期にはAβ42が血管壁に沈着し、その後大量のAβ40の沈着が血管壁に生じる。
軟膜、大脳皮質、小脳皮質の中小動脈にアミロイド蛋白の沈着を認め、視床や大脳基底核、脳幹、白質ではきわめてまれ。大脳皮質では後頭葉への沈着が最も頻度が高く、ついで前頭葉、側頭葉に多い。
血管平滑筋の外側基底膜へのアミロイド沈着に始まり、平滑筋細胞の変性を生じ、最終的に中膜全体がアミロイド線維で置換される。
傷害された血管は double barrel appearance、フィブリノイド壊死、微小動脈瘤などの血管変化を示す。
CAAでは血管壁の破壊を伴わない多核巨細胞の出現を伴うリンパ球浸潤(狭義のCAA関連炎症)や、肉芽腫性血管炎(Aβ関連血管炎)を生じることがある。
【臨床症状】
1)脳出血と微小出血
アミロイドが沈着した血管壁が脆弱化し破綻することで出血をきたしやすくなる。
脳出血では皮質・皮質下を含む脳葉型出血、皮質微小出血、限局性クモ膜下出血を示す。
皮質下出血は多発性、再発性を示し、出血時は出血部位に応じた神経脱落症状を示す。
認知機能障害や症候性てんかんを合併することが多く、再発傾向が高い。
2)脳表ヘモジデリン沈着と一過性神経症状(TFNEまたはamyloid spells)
脳表ヘモジデリン沈着のうち、大脳皮質の一部に限局して認められるものは cortical superficial siderosis (cSS)と呼ばれ、限局性のクモ膜下出血後の状態を反映していると考えられる。
一過性神経症状 transient focal neurological episodes (TFNE)は、数秒から数分間持続する、一過性かつ再発性の異常感覚や筋力低下、視覚障害を認めるもので、cSSが原因と考えられる。
3)大脳白質病変や脳梗塞と認知機能障害
皮質の小梗塞や深部白質の循環障害によると考えられる白質脳症がみられることがあり、認知スピードの低下に影響するとされている。
また、CAAはアルツハイマー病の認知機能低下を助長する。
4)CAA関連炎症/脳血管炎・亜急性白質脳症
急性または亜急性の認知機能障害や行動異常を認めることも多い。
頭痛や痙攣発作が高頻度にみられ、約半数に神経巣症状がみられる。
脳髄液中では抗Aβ抗体の抗体値上昇が報告されている。
【検査所見】
頭部MRIにて多発する陳旧性微小出血が認められ、GE法/T2*強調画像、磁化率強調画像(SWI)にて円形または類円形の低信号として描出される。
cSSはT2*強調画像やSWIで脳回に沿った脳表の低信号として認められる。
大脳皮質および皮質下の出血所見に加え、著明な浮腫、MRIのT2強調画像での白質の高信号がみられることもある。
【診断】
CAA関連脳出血の臨床診断基準:Boston criteria
〈Probable CAA〉 次の3項目を満たす。
① 脳葉、皮質または皮質下に限局した多発性脳出血
② 55歳以上
③ ほかに出血の原因がない
*確定診断は病理診断による。
【治療】
アミロイド沈着を予防する方法はない。
脳出血には保存的療法を行う。
適切な降圧療法を行い、抗血栓療法や抗凝固療法は避ける。
TFNEでは抗てんかん薬が有効なことがある。
CAA関連炎症に対しては副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤が使用される。
【参考】
・坂井健二、山田正仁「脳アミロイドアンギオパチー」:日本医師会雑誌 第146巻・特別号(1) 2017