細菌性赤痢 bacillary dysentery
【概念】
赤痢菌が大腸粘膜細胞に侵入し増殖することにより起こる急性腸炎。
【病原菌】
赤痢菌 Shigella sp.はグルコース発酵性およびオキシダーゼ反応陰性の腸内細菌科G陰性桿菌で、Shigella dysenteriae, S. flexneri, S. sonnei, S. boydiiの4菌種に分けられる。
菌は胃酸に抵抗性を示すため、極めて少ない菌量(10〜100個)で感染が成立する。
腸管に到達すると、M細胞を介していったんマクロファージに貪食され、マクロファージに細胞死を誘発した後に脱出し、腸管上皮細胞にその基底膜側から侵入する。その後菌は細胞外に出ることなく、隣接する腸管上皮細胞に移動し、やがて広範囲の腸管上皮障害をきたす。
S. dysenteriae 1が産生する志賀毒素は溶血性尿毒症症候群(HUS)の原因となる。
【疫学】
わが国では2000年代より減少傾向にあり、年間数100例程度で、過半数は東南アジアを中心とした海外感染例である。まれに国内での集団発生例も起こる。
起炎菌は S. sonneiが最も多く、次いでS. flexneri。
感染症法で三類感染症。学校保健安全法では第三種学校感染症。
【臨床症状】
潜伏期間は平均3日
初発症状は発熱、食欲不振などの全身症状で、その後腹痛、下痢、嘔吐が続く。
しぶり腹(テネスムス、裏急後重:腹痛を伴う便意が頻回にあるが、便が出ない)、膿粘血便がみられる。
一般に予後は良好で、無治療でも7日前後で治癒することが多い。
S. dysenteriae 1によるものは重症化しやすく、志賀毒素によるHUSをきたすこともある。
S. dysenteriaeや S. flexneriによるものは血便の頻度が高い。
S. sonneiによるものは比較的軽症で、水様性下痢のみに終わることも多い。
局所性合併症:直腸炎、直腸脱、中毒性巨大結腸、腸閉塞、腸穿孔
全身性合併症:敗血症、反応性関節炎、HUS
診断は糞便より原因菌の検出による。
【治療】
第一選択はシプロフロキサシンやキノロン系薬。
アジスロマイシンやマクロライド系薬が使用されることもある。
重症例には第3世代セファロスポリン系薬を経静脈的に投与する。
【註記】
【参考】
【作成】2017-06-27