脳動静脈奇形 arteriovenous malformation (AVM)

脳動静脈奇形
arteriovenous malformation (AVM)


【定義】
 脳血管奇形は脳内の血管に生じる先天性もしくは後天性の奇形。異常血管の特徴で、脳動静脈奇形 arteriovenous malformation (AVM)、海綿状血管腫、毛細血管拡張症、静脈血管腫の4種類に分類される。なかでも脳動静脈奇形の頻度が最も多く、SAHの原因としても脳動脈破裂についで多い。

【疫学】
 男性が女性の2倍多い。
 年間100万人中12.4人が発症し、その70%は頭蓋内出血である(全出血性脳卒中の1〜2%)。
 若年者の頭蓋内出血の原因として重要。

【病態生理】
 脳動静脈奇形は胎生3週頃に発生する先天性の動静脈短絡性疾患である。通常単発性で、多発性はまれ。80%以上はテント上に存在する。
 動脈と静脈が毛細血管を介さずに短絡する血管が絡まった網状の構造として認められる。この部分をナイダス nidusとよび、流入動脈、流出静脈で構成される。集簇した異常血管の間には、正常の脳組織が介在している。
 巨大なナイダスは高流量の動静脈短絡をきたし、盗血現象により隣接する脳組織の虚血を引き起こす。
 血管壁への圧負荷により動脈瘤や静脈瘤を形成する場合があり、これが破裂するとSAHや脳出血をきたす。

【臨床症状】
 10〜30歳の間に発症することが多く、半数は出血により発症し、脳実質やくも膜下腔へ出血をきたす。
 出血時は突発する頭痛、局所神経脱落症状、意識障害などを生じる。
 その他、頭痛やてんかん発作の原因となることもある。
 てんかんはテント上のAVMの30%に認められる。
 合併症として、静脈圧亢進による頭蓋内圧亢進症状、中脳水道圧迫による水頭症などがある。

【臨床検査】
 造影三次元CT撮影では流入動脈、ナイダス、流出静脈が立体的に確認される。
 頭部MRIではT2強調像でナイダスが蜂の巣状の血管無信号域として認められる。
 脳血管造影にて正確な解剖学的構造および血行動態が評価される。

【治療】
 外科治療、血管内治療、定位放射線療法の3種類の治療法を組み合わせて行う。
 ナイダスの外科的摘出が最も根治的だが、大出血の可能性があり、手技的に難しい。
 ガンマナイフなどの定位放射線治療は消失率が高く、深部AVMに好んで選択されるが、放射線壊死や嚢胞形成などのリスクもある。
 無症候性AVMに関しては、一定した方針がなく、個々の症例に応じて治療判断がなされる。

【経過・予後】
 未破裂AVMの初回出血率は年間2%、再出血率は年間18%程度。
 初回出血後の死亡率は10〜30%。


【参考】
・石川達哉「脳動静脈奇形・海綿状血管腫」:日本医師会雑誌 第146巻・特別号(1) 2017