心房細動 atrial fibrillation (AF)
【概念】
正常P波が消失し、きわめて迅速で多形態の心房波(細動波)を認め、RR間隔が不規則になる不整脈。
【分類】
・発作性心房細動:発症7日以内に自然停止するもの。
・持続性心房細動:7日以上持続し、自然停止しないもの。
・永続性(慢性)心房細動:除細動が不成功あるいは実施されず、永続するもの。
・頻脈性心房細動:>100拍/分
・徐脈性心房細動:<50拍/分
・孤立性心房細動:基礎疾患なし
・非弁膜症性心房細動:基礎に弁膜症なし
【病因・病態】
高齢者に多く、若年者に少ない。80歳異常では5〜8%に見られる。
心房になんらかの原因で圧・容量負荷がかかると発現しやすい。
自律神経のアンバランスによっても起こりやすく、交感神経・副交感神経のいずれが緊張していても発現しやすい。
メカニズムはリエントリーであり、肺静脈内から生じる群発性の自発興奮がトリガーとなり、それが心房内で小さなリエントリーを形成し、分裂・融合・消失を繰り返しながら、心房内を無秩序に旋回することで維持される。
【臨床症状】
脈の乱れ感を伴う動悸を自覚するが、無症状のこともある。
発作性の多くは症状を有するが、慢性のものは症状を自覚しないことが多い。
頻脈傾向が強く長時間持続すれば、心不全をきたすことがある(頻脈誘発性心筋症 tachycardia-induced cardiomyopathy)。
【臨床検査】
1)心電図
・RR間隔が絶対的に不規則
・基線上に細動波(細かな揺れ)を示すことが多い。
・QRSは正常幅だが、心室内変行伝導により幅広いQRSを示すこともある。
2)心エコー
・左房径が45mmを超えると血栓形成のリスクが高まる。
・経食道心エコーでは左心耳内の血栓を検出できる。
【合併症】
血栓塞栓症を合併しやすい。特に脳塞栓症が起こりやすい。
発作性心房細動がしばらく持続した後に停止すると、一過性に心房筋にスタニング(無収縮)が生じ、心房内(特に左心耳)に血栓が形成されやすくなる。心房筋の収縮力が回復すると形成された血栓が遊離し、動脈塞栓症を起こす。
慢性心房細動でもAFの持続で心房筋の収縮力が低下し、左房内に血栓が形成されやすくなる。
CHADS2スコアは、脳塞栓症の合併リスクの判定の指標となる。
【予後・治療】
一般に病的意義は高くないが、脳塞栓症の予防が必要となる。
1)薬物治療
① 抗血栓凝固療法:治療の中心となる。
ワーファリン、または選択的第Xa因子阻害薬が用いられる。
② 洞調律維持(リズムコントロール)療法
心機能が正常であれば、Ⅰ群抗不整脈薬を用いる。
心機能が低下していれば、Ⅲ群抗不整脈薬が用いられる。
③ 心拍数調節(レートコントロール)療法
β遮断薬、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、ジギタリス製剤が用いられる。
④ アップストリーム療法
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤(ARB)などを用いてAFが起こる上流(心筋の線維化など)を押さえる治療法。最近では単独で行われることはなくなってきている。
2)カテーテルアブレーション
一般的に、AFの起源である肺静脈を電気的に隔離する肺静脈隔離術が行われる。
1回のセッションでの成功率は、発作性AFで70〜80%、持続性AFで50〜60%程度。
合併症は、Brockenbrough法(心房中隔を貫通させる方法)による心タンポナーデ、肺静脈内での焼灼による術後の肺静脈閉塞、左房後壁焼灼による心房-食道穿孔など。
3)外科的手術
メイズ手術は心房を迷路のようにメスで切開して縫合することにより、リエントリーの旋回を阻止する。ただし開胸術を要するため、単独では行われず、通常他の心臓手術に付随して行われる。
【註記】
【参考】
【作成】2017-03-29