アテローム血栓性脳梗塞
atherothrombotic infarction
【概念】
脳表主幹動脈または頭蓋外内頚動脈や椎骨動脈の50%以上の有意狭窄または閉塞を示す動脈硬化性脳血管病変が脳梗塞の原因となるもの。
脳梗塞の20〜30%を占め、再発率が高い。
【病理】
動脈硬化の危険因子が加齢に伴って積み重なり、血管内中膜にプラーク・粥腫が形成される。
狭窄部での血栓形成、プラーク破綻と潰瘍形成、プラーク内血栓などによる急性血管閉塞などが脳虚血の発端となる。
粥腫の好発部位は血管分岐部であり、高度狭窄や閉塞によりあらかじめ血管支配領域に低灌流があると側副血行路が活用され、虚血巣の進展が抑制される。
【発症機序】
・血栓性機序:血管腔のアテローム硬化性病変に血栓が付着すること(粥腫破綻 plaque ruptureによる血栓形成 in situ thromobosis)によって血管腔が狭窄または閉塞、またはそこから分枝する穿通枝が閉塞して梗塞が起こる場合。
・塞栓性機序:潰瘍性病変や高度狭窄病変に付着した血栓が遊離して末梢血管を閉塞する場合(artery-to-artery embolism)。
・血行力学的機序:主幹動脈に狭窄または閉塞があり、血流が側副血行路を介して賄われているとき、酸素需要に対する酸素供給不足の状態を貧困灌流症候群 misery perfusion syndromeという。このような状況下で血圧低下や徐脈などの血行力学的負荷が加わると末梢はさらに低灌流となって梗塞が起こる場合(低灌流による虚血持続状態 hemodynamic ischemiaからの分水嶺梗塞 watershed infarction)。
これらの発生機序が単独もしくは複合して発症する。
【危険因子】
高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙などのアテローム硬化の危険因子を有することが多い。
冠動脈疾患や末梢動脈疾患が併存していることもある。
TIAが先行することもあり、同一の血管灌流領域で発作を繰り返すのが特徴。
【臨床症状】
梗塞部位に対応した神経脱落症状が突発完成、緩徐進行、または階段状に進行する。
発症は通常夜間に多く、起床時に症状出現に気付く場合が多い。
突発完成形を示すものは塞栓性の機序が考えられ、日中活動時に発症することが多い。
数日間かけて徐々に階段状に皮質症状が現れてくるものを進行性脳卒中 progressing strokeという。
頸部内頚動脈狭窄症で血管雑音を聴取することがある。
四肢末梢の脈圧や左右差は閉塞性動脈硬化症や鎖骨下動脈の閉塞を示唆する。
入院後再発率5.5%、発症48時間以内の症状進行率20%。
【画像検査】
・CT:発症3時間以上経過後、淡い低吸収域が検出される。2〜3日後に明確な低吸収域となり、2〜3週目に等吸収域 fogging effectとなった後、再び低吸収域となる。
・MRI:発症30分以上経過後、拡散強調画像で高信号域を呈する。
・灌流CT、MRI灌流強調画像、脳血流SPECTにより、灌流遅延や局所脳血流低下が描出できる。
・頸部超音波検査、MRA、CTA、脳血管造影により、脳梗塞の責任血管に有意狭窄(50%以上の管腔径狭窄)、潰瘍形成や閉塞を確認することにより診断される。
・内頚動脈における破綻しやすい不安定プラークは、頸部超音波で薄い線維性被膜、低輝度高度狭窄、潰瘍形成、可動性血栓付着などで評価できる。
・MRI black blood法でT1強調画像高信号の場合、T2強調画像が高信号プラークは脂肪豊富、低信号はプラーク内出血と、プラークの質診断が可能。
・経頭蓋ドプラによる狭窄部からの塞栓子HITS(high intensity transient signals)が検出された場合、再発のリスクが高くなる。
【参考】
・藤本茂「アテローム血栓性脳梗塞」:日本医師会雑誌 第146巻・特別号(1) 2017