抗リン脂質抗体症候群 antiphospholipid syndrome (APS)

抗リン脂質抗体症候群
antiphospholipid syndrome (APS)


【概念】
 後天的な凝固異常性を伴う自己免疫性血栓性疾患で、若年性脳梗塞の発症や多臓器の動・静脈血栓症、不育症などに関与する。
 血栓発症機序に関してはまだ不明の点が多い。
 SLEの15〜30%に合併する。

【臨床症状】
 虚血性脳血管障害、脳出血、クモ膜下出血、Sneddon症候群、横断性脊髄炎、ギラン・バレー症候群、片頭痛、てんかん、末梢神経障害などがみられる。
 出現頻度は片頭痛(20.2%)が最も多く、次いで脳梗塞(19.8%)、TIA(11.1%)などの虚血性脳血管障害が多い。
 脳梗塞の責任病巣は大脳(皮質枝、穿通枝)、脳幹、小脳など広範囲に認められる。梗塞のサイズは中〜大で、側脳室周囲や深部白質に虚血性病変が多発するのが特徴。
 脳出血の責任病巣は基底核から皮質下までさまざまで、クモ膜下出血は嚢状動脈瘤破裂によることが多い。

【検査所見】
 IgG抗カルジオリピン抗体 cardiolipin antibody (aCL)、lupus anticoagulant (LA)、β2‐GPⅠ依存性抗カルジオリピン抗体(β2-GP I aCL)などが検出される。

【診断】
 抗リン脂質抗体症候群診断基準(2006年)による
〈臨床所見〉
 血栓症:1回またはそれ以上の
  ・動脈血栓
  ・静脈血栓
  ・小血管の血栓症(組織・臓器を問わない)
 妊娠の異常
  ・3回以上の連続した原因不明の妊娠10週未満の流産
  ・1回以上の胎児形態異常のない妊娠10週以上の原因不明子宮内胎児死亡
  ・1回以上の新生児形態異常のない妊娠34週未満の重症妊娠高血圧腎症、子癇または胎盤機能不全に関連した早産
〈検査所見〉
 抗カルジオリピン抗体
  ・IgGまたはIgM
  ・中・高抗体価(>40GPLまたはMPL、または>99 percentile)
  ・12週間以上の間隔を空けて、2回以上陽性
  ・標準化されたELISAで測定
 ループスアンチコアグラント
  ・12週間以上の間隔を空けて、2回以上陽性
  ・International Society on Thrombosis and Hemostasisのガイドラインに従って検出
 β2-GP I 依存性カルジオリピン抗体
  ・IgGまたはIgM
  ・抗体価>99 percentile
  ・12週間以上の間隔を空けて、2回以上陽性
  ・標準化されたELISAで測定
*臨床所見が1つ以上、検査所見が1つ以上存在した場合、APSと診断する。

【治療】
1)急性期治療
 APSにおける脳血管障害に対する特別な治療法はない。
 動・静脈血栓症に対して抗浮腫療法、抗凝固療法が行われる。
2)慢性期治療
 APSの再発予防に対する第一選択は長期間のワルファリンによる抗凝固療法。
 至適強度はINR2.0〜3.0が推奨される。
 妊婦のAPSではワルファリンが禁忌となるため、アスピリンまたはヘパリンによる治療を基本とする。


【参考】
・大熊壮尚、北川泰久「抗リン脂質抗体症候群」:日本医師会雑誌 第146巻・特別号(1) 2017