筋萎縮性側索硬化症

筋萎縮性側索硬化症
Amyotorophic Lateral Sclerosis (ALS)


【概念】

 上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが選択的に障害される疾患。
 40〜50代に好初し、男性にやや多い。有病率は10万人当たり2〜6人。

【病型】

 1. Charcot の古典型:上位・下位の運動ニューロンの障害が見られる。
  上肢遠位筋萎縮に始まり、近位におよぶ。下肢は初期は痙性を示す。
 2. 脊髄進行性筋萎縮症 (SPMA) :下位運動ニューロン症状が前景にでる。
  上肢遠位筋萎縮に始まるが、錐体路徴候が出現しない。
 3. 進行性球麻痺 (PBP) :球麻痺症状が前景にでる。
  球麻痺症状(嚥下・構音障害、舌線維束攣縮)にて始まる。

 ・片麻痺型 hemiplegic form
   一定期間、筋萎縮や錐体路症状が一側上下肢のみに限局する。
 ・偽多発神経炎型 pseudopolyneuritic form
   筋萎縮が下肢末梢から始まり、腱反射が早期から低下するもの。
 ・Vulpain-Bernhardt 型
   筋萎縮が上肢近位筋から始まるもの。

【症状】

 臨床的には四肢筋・舌・咽頭筋の進行性萎縮と麻痺、錐体路症状が出現する。
 (陰性四徴候:感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥瘡)

【病理】

 1. 下位運動ニューロン障害(頚髄に強い)
  脊髄前角:大型細胞の脱落とグリオーシス。
   残存細胞には central chromatolysis、spheroid、neuronophagia、
   Bunina 小体がみられる。
  脊髄前根:萎縮と大径有髄線維の脱落。
      ↓
  骨格筋萎縮(Aran-Duchenne 型)、脱力、Fasciculation
  初発部位;上肢>下肢、球筋
  進行;遠位→近位→呼吸筋
  除神経筋;筋固有収縮の亢進(機械的刺激に対する収縮性亢進)
      ↓
  筋電図、筋生検は神経原性パターン
  神経伝導速度、髄液、CKは異常なし

  *S2前角の Onufrowicz 核(外括約筋運動核)のみ残存→膀胱直腸障害なし

 2. 上位運動ニューロン障害(末梢ほど強い)
  錐体路(側索・前索)の脱髄、グリオーシス
  前・後中心回の萎縮(錐体細胞、特に Betz の脱落)
      ↓
  四肢痙性麻痺、反射亢進、病的反射(上肢<下肢)→末期には消失
  仮性球麻痺(情動失禁を伴う)

 3. 延随神経核障害
  舌下神経核(最も強い)、迷走・副神経核の障害→球麻痺
  顔面神経・三叉神経核の障害は軽い
  動眼神経、滑車神経、外転神経核は侵されない→外眼筋麻痺はない

 4. その他
  感覚障害なし
  自律神経障害なし→褥瘡なし、膀胱直腸障害なし
  痴呆を伴うこともあるが、高度の痴呆はきわめて稀。

【検査】

 筋電図:神経原性パターンを示し、fibrillationや giant spike がみられる。
 筋生検:典型的な神経原性萎縮所見(target fiber、fiber type groupingなど)が見られる。
 神経伝導速度:晩期まで正常に保たれる。
 髄液蛋白、血清CK:正常のことが多い。
 MRI:T2強調像で錐体路が高信号を呈し、特に内包中・下部レベルで著明である。
 また、中心溝および後中心溝の内側皮質内に溝に沿って線状索状の低信号がみられる。

・ALSの多発地帯
 紀伊半島、Guam 島、West New Guinea に100倍もの多発地域がある。
 家族内発生が多く、生存期間が他の地域より長く、痴呆などを合併する頻度が高い。
 病理学的には、ALSの所見の他に、海馬のアンモン角を中心に Alzheimer 神経原線維変化がみられる。
 同一家系・地域にParkinson 痴呆症候群も高頻度にみられる。
 土壌中のカルシウム、マグネシウムの低値が関与する?

【サブテーマ】
家族性筋萎縮側索硬化症 (FALS)


【註記】


【参考】
・塩澤全司ら:神経内科 vol.43 no.4 1995


【改訂】2017-02-01