アデノウィルス感染症 Adenovirus infection

アデノウィルス感染症
Adenovirus infection


【概念】

 アデノウィルスが呼吸器、眼、消化管などの粘膜およびリンパ組織に感染することによって発症する一連の疾患群。

【病原菌】

 マストアデノウイルス属アデノウィルスAdenovirus:7亜属(A〜G)、血清型57種。
 飛沫感染、接触感染、経口感染などで局所的小流行を起こす。
 潜伏期間は7〜10日程度で、通常予後の良い急性疾患を起こす。
 ウイルスは体外に排泄された後も、冷暗所では1週間以上にわたって感染性を維持する。

【関連疾患】

疾患 患者条件 主な血清型
急性熱性咽頭炎
リンパ節・咽頭・結膜炎
急性気道疾患・肺炎
肺炎
濾胞性結膜炎
流行性角結膜炎
百日咳様症候群
急性出血性膀胱炎
下痢
腸重積症
免疫不全患者の合併症
乳児、幼児、小児
学童
新兵
乳児、幼児、小児
年齢を問わない
主に成人
乳児、幼児、小児
乳児、幼児、小児
乳児、幼児、小児
乳児
免疫不全患者
 1・2・3・5・7
3・7
4・7・14・21
1・2・3・7
3・4・11
8・19・37
5
11・12
40・41・52
1・2・5
5・34・35

1)小児おける呼吸器疾患

 5歳以下の小児の上気道感染症のおよそ5%を占め、発熱、鼻汁、咽頭痛を主とした「かぜ症候群」を引き起こし、5日程度で軽快する。
 急性扁桃炎の症状が強く、滲出性扁桃炎の病像を示すことも多い。
 ときに重症化することがあり、肺炎、胸膜炎、脳炎、胃腸炎、肝障害などを来すこともある。小児肺炎のうち、約10%がアデノウイルスによる。
 クループ croupの原因となることもあり、小児で発熱に伴い、嗄声、犬吠様咳嗽、呼吸困難、チアノーゼを呈する。
 百日咳(Bordetella pertussis感染)罹患児の40%からも本ウィルスが分離される。

2)咽頭結膜熱 pharyngoconjunctival fever

 発熱、咽頭炎、結膜炎を3主徴とする咽頭結膜炎をAd3などが起こす。
 本症は夏季にプールで伝播しやすいので「プール熱」とも呼ばれる。

3)流行性角結膜炎 epidemic keratoconjunctivitis

 アデノウイルスによる眼感染症は年間100万例起こるとされ、ウイルス性結膜炎の90%を占める。結膜の充血や濾胞性結膜炎がみられる。
 より重症で感染力の強い流行性角結膜炎は主に成人の間で流行する。眼瞼浮腫や眼の痛み、かゆみ、眼脂を伴う結膜炎が先行し、続いて角膜炎が起こる。耳介前リンパ節腫脹をみることがある。罹病期間は1週間からときに1ヶ月続く。

4)出血性膀胱炎 hemorrhagic cystitis

 Ad11、Ad21によって起こる膀胱炎で、男児に多い。小児の出血性膀胱炎の20〜50%を占め、肉眼的血尿と頻尿がみられるが、数日で軽快する。
 ウイルスは血行性に膀胱粘膜に到達すると考えられている。

5)急性胃腸炎

 乳児下痢症の5〜15%を占め、Ad40、Ad41により起こる。
 腸重積症も本ウィルスによる小腸壁または腸間膜のリンパ節炎によると考えられている。

6)免疫不全患者におけるアデノウィルス感染症

 肝炎や肺炎などを引き起こし、重症化する。

【検査】

・血液検査:著明な白血球増加とCRP高値を呈することが多い。
・迅速診断法:感度がやや低く(70%前後)、偽陰性もある。
・ペア血清での有意な抗体価上昇
・PCR法によるウイルス遺伝子の検出

【治療・予防】

・対症療法のみ。通常予後が良いので数日間で自然軽快する。
・ウイスルはエンベロープを持たないため、石鹸などの脂質に作用する消毒薬は効きにくい。
・酸やアルカリにも抵抗性が高い。
・アルコールは有効だが、効果はやや弱い。
・塩素は有効。器具や水の消毒に用いられる。


【註記】


【参考】


【作成】2016-12-11
・2017-01-03