急性膵炎 acute pancreatitis
【概念】
膵酵素が何らかの原因によって膵内で病的な活性化を受け、膵臓と周囲組織を自己消化する急性疾患。
軽症のものは炎症が膵に限局し、自然治癒傾向が強く致命率は低い。炎症が腹腔内に進展すると発症早期に多臓器不全を合併しやすく、発症2週以降は敗血症などの重症感染症の合併頻度が高まり、予後が悪い(重症急性膵炎)。
【分類】
・浮腫性膵炎:膵の血流障害を伴わず、間質の浮腫が主体。
・壊死性膵炎:膵の血流障害により膵内に出血や壊死を伴い、重症化しやすい。
・原因別:アルコール性約40%、胆石性約25%、特発性約20%
【病理・病態】
・通常膵内では不活性な膵酵素が病的に活性化され、膵および周囲臓器を自己消化する化学的炎症が病態の基本。蛋白分解酵素のトリプシンが各種膵酵素の活性化に中心的な役割を演じる。
・軽症:膵実質の壊死はなく、膵周囲の脂肪壊死と小葉間の浮腫、多核白血球の浸潤が主。多くは1週間前後で自然軽快し、機能的にも形態的にも元に復する。
・重症:膵内外の高度な脂肪壊死と膵実質の壊死や出血。
大量の活性化膵酵素による周囲組織の自己消化によりさまざまな炎症性メディエーターが産生される。そのため、全身の血管透過性が亢進し血漿成分が漏出して血管内は脱水となり、血液凝固能が亢進して臓器血流は障害され、活性化好中球が重要臓器に集積して組織を傷害し、発症早期にはショック、呼吸不全、腎不全などを起こす。
発症2週以降は腸内細菌が全身へ移行し、膵壊死巣の感染や敗血症などの重篤な感染症が発生しやすくなる。
・急性期が過ぎると、壊死巣周囲に間葉系反応による修復機転が働き、膵の浸出液、壊死物質や出血を被包した仮性嚢胞をしばしば形成する。
【臨床症状】
1)自覚症状:典型的な上腹部痛で発症。疼痛は徐々に増強して数時間でピークに達する。背臥位で増強し、強い前屈位 pancreatic postureで軽減する。
初発症状として腹痛が90%以上、悪心・嘔吐や背部痛も起こる。高齢者ではまれに無痛性のものもある。
2)他覚症状:上腹部を中心とする圧痛。次第に腹部全体に広がり、腹膜刺激症状を伴うことが多い。
発熱、黄疸は胆石性膵炎で頻度が高い。
頻度は低いが、出血傾向の徴候として特徴的な皮膚所見が発症後2〜3日経ってから出現することがある。
・Cullen徴候:腹腔内の出血性浸出液が臍周囲に皮下出血を起こすもの。
・Grey Turner徴候:側腹部を中心に皮下出血班が拡がるもの。
【臨床検査】
1)血液検査:
・白血球増加、ヘマトクリット上昇、凝固系異常や血小板数低下。CRP陽性。
・膵酵素上昇:早期よりアミラーゼ、リパーゼ、トリプシンなどが上昇。
アミラーゼは発症後数時間で上昇し始め、20〜30時間でピークとなり、軽症例では多くが5日以内に正常化する。ただし、尿中アミラーゼの上昇は10〜20日持続する。
血中膵酵素の上昇の程度は急性膵炎の重症度は反映しない。
・血糖、LDH、BUN、クレアチニンの上昇、血清Caや総蛋白の低下は膵炎の予後と相関する。胆石性膵炎ではAST、ALT、総ビリルビン値の上昇がみられる。
2)画像検査:
・腹部X線検査:イレウス像、左上腹部の局所的なアーチ状の小腸拡張像 sentinel loop sign(炎症の波及による限局性空腸麻痺)、横行結腸の拡張と脾弯曲部での急激な途絶像 colon cut-off sign、後腹膜ガス像、石灰化胆石、膵石像など。
・腹部超音波検査:膵腫大、膵周囲の炎症性変化、腹水、胆管結石や総胆管拡張など。
・腹部CT:膵腫大、膵周囲の炎症性変化、液体貯留、膵実質濃度の不均一化など。
CT所見は重症度判定に用いられる。
【診断】
① 上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある。
② 血中、尿中あるいは腹水中に膵酵素の上昇がある。
③ 画像で膵に急性膵炎に伴う以上が認められる。
これら3項目のうち2項目以上を満たし、ほかの膵疾患および急性腹症を除外したもの。
【治療】
1)初期治療:まず輸液を行なう。
・蛋白分解酵素阻害薬:メシル酸ガベキサート(FOY)、メシル酸ナファモスタット(FUT)、ウリナスタチン(UR)などの点滴静注。
・疼痛治療:ブプレノルフィンやペンタゾシン投与。頻回使用時は硫酸アトロピンを併用。
軽度の疼痛にはジクロフェナクやインドメタシン座薬を使用。
強力な鎮痛にはオピアトやパンアトなどの麻薬製剤を使用。
・胃酸分泌抑制:H2受容体拮抗薬の使用。
2)感染症対策:軽症〜中等症では抗菌薬の予防的投与は不要。
重症例では膵移行性の良いカルバペネム系抗菌薬が推奨される。
胆道感染があれば、第2世代以降のセフェム系抗菌薬が推奨される。
3)栄養管理
・軽症例では比較的早期から経口摂取が可能となる。
症状が長引く場合は経腸栄養を試みる。
・重症例では中心静脈栄養または経腸栄養が行われる。
4)胆石性膵炎
胆管炎や結石嵌頓による閉塞性黄疸がみられる場合は、緊急に内視鏡的乳頭切開術を行い、結石の除去、経鼻胆道ドレナージチューブの留置(ENBD)などを行なう。
膵炎鎮静後は再燃予防のために胆嚢摘出術が推奨される。
5)重症膵炎に対する特殊療法
・持続的血液濾過透析(CHDF)などの血液浄化療法や腹膜灌流。
・蛋白分解酵素阻害薬・抗菌薬持続動注療法。
・選択的消化管除菌(SDD)。
・感染性膵壊死組織の外科的除去(ネクロゼクトミー)。
【註記】
【参考】
【作成】2017-03-08